第2話 宣伝の下準備
蚤の市に、多くの呉服店が参加するらしい。うちが少しでも目立つようにしないとな。
つまみ細工の花束を作り、立体の額縁に入れて看板に見立てた。もちろん『橘屋』と店名も入れてある。
ふ、我ながら上出来。
「ユウナ……本当にすごいねえ」
梅ちゃんが朗らかな笑顔で、作った花の看板を撫でた。
「……いや、そんな大したもんじゃないよ」
口ではそう言いつつ、思わず頬が緩んでしまった。
……本当は少しだけ、胸の奥が温かくなっていた。
「それ気に入ったなら、季節の花で何種類か作ろうか?」
「あら、それいいね。蚤の市終わったら店に飾っておこうかね」
「ああ、なんて惜しい……魔導士の道じゃなくて、うちに勤めていたら心強かったのに……」
「物騒なこと言うなよ……」
小一時間ほど話したあと、実家を出た。
照りつける日差しに思わず顔をしかめる。砂利道が白く光り、じりじりと熱が昇ってくる。
湿気を含んだ空気が肌にまとわりついて不快だ。
そんな中、遠くで蝉の声が響いているのが、やけにのどかに思えた。こちらに飛んでこないことを祈ろう。
――蚤の市で人がたくさん来るとはいえ、シャツやズボンといった服が出回り出した今、着物を買う人の数は明らかに減っている。
うちの品はいいものばかりだから問題ない。
……でも、それだけじゃだめだ。
客の目に止まらなければ、どれほど良い品でも売れない。
代々続いてきた橘屋が、あっけなく消えてしまうなんて、やっぱり嫌だ。
今回は本気で宣伝しよう。
……ミカヅチではたしか、何日か前から劇団が来ていて、公演をしているとかなんとか。目を引くような演出は何かしらの参考になるだろう。
首都ミカヅチ行きの切符を購入し、汽車に乗り込んだ。
……お嬢ちゃんも誘ってみたらよかったかな。
目をきらきらさせながら熱心に音楽劇を見ている様子が、なんとなく頭に浮かぶ。
隣でそんな顔を見られたら、こっちまでうれしくなりそうだ。
想像するだけで、幸せがふわりと胸に灯るような、くすぐったいような気持ちになる。
……一緒に笑って、話して、そのまま帰り道もずっと――いや、何を余計なこと考えているんだ。それでは、ただ彼女と出かけに行っただけになるじゃないか。
首を左右に振り、無理やり気持ちを切り替える。
でも、車窓に映った自分の顔は、どこか不満げで、つい苦笑した。




