第25話 魔法の再現
せっかく起こしてもらったし、お嬢ちゃんが作ってくれた朝ごはんでも食べようかな。
今日は予定がない。久しぶりの休日だ。
***
食事と掃除を終え、玄関横の空き部屋にきた。この部屋はもともと、呉服店を継ぐ見込みで、着物とかその他の道具を置こうと思ってできた場所だ。
でも結局使われることなく、お嬢ちゃんの化粧道具や姿見くらいしかない。一番物のない部屋だから、何かするにはちょうどいい。
ここで、大臣が使役している精霊が使ったものとされる魔法を、俺の力で再現できるかどうかやってみようと思い立った。
実験というか、暇つぶしで。
これを閃いたのが、昨日……というか今日の二時頃。
ルネに詳しく聞いてみたところ、研究所で行方不明になった八名は、闇属性に似た魔法に飲み込まれ、離れた場所へと移動したらしい。その場所が、本省にある地下の研究室。
「闇の力を操る精霊の仕業で間違いない」とのこと。
精霊も人間のように得意分野があるそうだ。
ちなみに人間が使う“闇属性魔法”と、精霊が使う“闇魔法”は別物と言う。
俺は闇属性魔法は使えないから、それ以外で移動方法を考えないと。
エルとビットの葉っぱでできた羽を見て、ふと思った。
この子ら、瞬きする次の瞬間には現れるんだよな……あれって瞬間移動じゃないか?
風を使わず、瞬間的に長距離移動することができる妖精二人の能力なら、属性魔法じゃないし、案外再現できたりするのでは?
これができるようになれば、一生切符代払わずに済む。最高じゃないか。
新しい能力が得られる予感にそわそわしながら、妖精に質問してみた。
「それはユウナでも無理ね」
エルは困ったような顔をする。
「できないものなのか? 人間だって、風属性魔法で飛んだりできるのに?」
「いい? そもそも、人間と精霊の魔力や体は完全に別物なのよ。わたしたちみたいな移動魔法を使ったら、ユウナの体は分裂通り越して消滅しちゃうわ」
こっわ!
今の一言で、冗談でも試してみようとは思わなくなった。
「あ、でもね」とビットが、お菓子缶からビスケットを引っ張り出しながら話し始める。
「精霊が人間を魔法で保護している場合は、瞬間移動できるんだよ。まあ、そのときは、精霊がそばにいないとだめだけど」
「なるほどね……」
精霊の力を借りて移動したいわけじゃないからな……
自分が消滅しないためにはどうしたらいい?
いや、別に瞬間的に長距離を移動したいわけではない。ただ、念じたら違う土地に着いていてほしいだけで。
いろいろ考えていたけど、夜中だったということもあって、いい考えは浮かばなかった。
――とりあえず、闇属性には影から影へと移動する者がいるというので、それを俺なりの魔法で再現してみよう。
……移動する予定の箇所に印をつけておき、その印の上に出現できるのではないか?
まるで何かの遊びみたいだな。これなら、俺でもできるかもしれない。
試しに、紙に『✕』を書いて寝室に置き、そこに立つ自分を想像する。
……移動していない。
影同士を繋げる想像をして、再度試す。
だめだった。
闇属性じゃないとできないのか?
部屋に侵入してきた白猫がいたので、ソラが寝室の『✕』印の上に移動した姿を思い描き、魔法を使った。
……だめだこれは。
やっぱり俺には無理なのか?
頭ではわかっているのに、心だけが先に急いていく。焦りが、じわりと胸の奥に広がる。
――間に合わない。お嬢ちゃんを助けるために必要な想像力が、俺にはまだ足りない。
「どうやるんだ、これ」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
「うーん、ルネに見てもらった方が早いんじゃない?」
――それはそうなんだけど。
ルネに頼るのは簡単だ。でも、それじゃ俺がここまでがんばってきた意味がない。
「もうちょっとやってみる」




