第24話 仲夏の戯れ
襖の隙間から差し込む光がまぶしくて、思わず目を細めた。重たいまぶたをこじ開けた先に、お嬢ちゃんの顔があって――心臓が跳ねた。
「……ユウナさん」
「うわっ」
思わず声が出た。
今、寝顔を見られたよね?
……やばい、よだれとか垂れていたらどうしよう。
みっともない顔をしていなかっただろうか?
そんなことばかり考えたせいで、なかなか頭が働かない。寝起きに驚かされたような緊張感と、鈍い思考回路で混乱しながら、なんとか体を起こす。
彼女が着ている制服は夏仕様になっていた。
白地に黒の襟と袖、黒いネクタイ。そこに薄花色の線が二本。
夏用のセーラー服も、よく似合っていた。
「……おはよう。えーと……どうしたの?」
「おはようございます。起きてこられないので、具合でも悪いのかと」
枕元にある時計を見ると、目覚ましを設定せずに寝てしまっていたらしい。
この子にいらぬ心配をかけてしまった。みんなと楽しくお喋りしていて、三時頃まで起きていたせいだ。
「夜中まで仕事してたんだ」
「あ……起こしてすみません」
ただの夜更かしで寝不足なんて、みっともなくて言えない。
……何を格好つけているんだか。
自嘲気味に笑い、立ち上がった。
「ごめん。朝ごはん作らせたね」
「いえ。慣れてるんで、かまいませんよ」
申し訳なさに心が痛くなった。
それにしても……忘れた頃にやってくる畠山め。
あいつのせいで、お嬢ちゃんはどれだけ嫌な思いをしたか。
春頃、あいつに髪を鷲掴みにされたときの、この子の怯えた顔が頭に焼きついていて、思い出すたびに苛立ちが込み上げる。気づけば、自分の頭をがしがし掻いていた。
はー……落ち着こう。
彼女の髪をすくってみた。
艶のある、綺麗な栗色の毛だ。このままでもいいけど……。
「時間、あるよね。髪結んであげようか」
台所にある椅子に彼女を座らせた。
後頭部の高めの位置で髪を一つにまとめる。指先に意識を集中し、めん棒の先端だけを高温に保つ。
火傷をさせないよう、細心の注意を払いながら、毛先を一束ずつ巻いていった。
前に作った、黒色に銀の刺繍が入っているリボンを結び目に巻きつけて完成。
台所の棚の奥に眠っていためん棒に魔法をかけ、高温にし、髪を巻くときに使ってみた。さすがにもう料理には使えない。
八意高校は髪色、髪型に関しての校則は存在しないから、どういう風にしたって言われない。
若気の至りか、前髪と襟足部分以外刈り込んだ同級生がいたが、今は奇抜な髪型をやめたと聞いた。
「わあっ、ありがとうございます!」
お嬢ちゃんは手で後ろ髪をふわっと持ち上げて、きらきらした瞳でこちらを見た。
「すごい器用ですよね。わたし、こういうの苦手で」
学校に行くときいつもそのままの髪型だったから、それがいいのかと思ったら……そういう理由か。
これに関しては練習しないとどうにもならないし、興味もなかったらそうなるだろう。
「夏場は?」
「適当に縛ったり、髪を切ったり」
……結構雑なんだな。
「綺麗な髪なのに。せっかくだから、もう少しだけ気にしてみたら?」
「ふふっ。そうですね。わたしの髪が綺麗なのは、ユウナさんのおかげですし……ちょっとだけ気にするようにします」
またこの子は。人たらしめ。
そんな風に考えていたら、思わず口元が緩んだ。
いや、でも……それだけでいいんだよな、なんて。
おっと。そろそろ家出る時間か。
「そろそろ行く時間かな。気をつけていってらっしゃい」
「いってきます!」
髪を揺らし、かわいい笑顔を振りまきながら、颯爽と行ってしまった。
今日も一日、いい日になるといいね。




