第20話 異次元の者
自宅の玄関先でぐしょぐしょになったカッパと長靴を魔法で消す。
着物だと動きづらそうだったので、高校生時代以来、着ようとも思わなかった体操着を身につけた。
緊張の糸が切れたせいか、全身がぐったりと重い。気づけば汗で服が背中に張りついていて、カッパの意味がないくらい中までびっしょり濡れていた。
もう一回風呂でも入るか。
台所の手前の引き戸を開ける。
風呂を沸かし、着ているものを全部脱いだ。
めんどうだし、洗濯は朝だ。どうせ魔法で片付けるんだけど。
浴槽に浸かり、ため息をついた。温かい湯が身体に染み渡る。
「……ところで、なんでルネも入っているの」
気づけばカラスがぷかぷかと湯船に浮いて、顔をとろけさせている。
「久しぶりに出てきたから、しばらく一緒にいたいなって」
え、なにこの子……かわいいこと言うじゃないか。
小さな頭を指で撫でてやる。
「魔法獣は名前を呼ばないと出てこられないけど、ルネはどうやって来たの?」
そういえば、エルとビットも夜になると現れるな。何か魔法獣について、授業で習わないような事柄でもあったっけ?
「自由にこの次元に出入りできるのは、向こうの次元の者のみ。魔法獣は名前を呼ばないと出てくることはできない。ぼくはユウナが生み出そうとした魔法獣の姿を乗っ取ったから、この姿をしている」
乗っ取った……?
ということは、魔法獣じゃない?
「ちょっと待って。ルネ、おまえ……精霊なのか?」
思わず湯船の縁をつかんでルネをまじまじと見た。
「――あ」
まずいことでも言ってしまったかのように、無表情のままゆっくり視線を外される。
どうりで妙に賢いわけだ。
「こんな簡単に出入りできるなら、普通に来てくれたらよかったのに」
「こちらの次元には何回か来ていた。知識を得るために、図書館に侵入したり、人間観察していた」
一度見たものの構造や思考なんかがわかるって、言っていたもんな。俺の知らないところで、豆なことをしてくれていたみたいだ。
よし、詳しく聞こうじゃないか、と風呂から上がる。
隣の部屋でお嬢ちゃんが寝ているから、静かにしないと。
廊下を挟んだ自分の寝室に、音を遮る結界を張っておく。
襖を開けると、家を出る前に敷いておいた布団の上にはソラが気持ちよさそうに転がり、抜け毛がこんもりと……
まるで白い絨毯じゃないか。




