第19話 調査の進行
不安が足元からゆっくりと上昇し、身体を震わせた。
「……飲み込まれているって、どういうこと?」
声がかすれていた。思わず喉を手で押さえる。
人間が、精霊に取り込まれる?
まるで器のように、入れ替えられる?
想像するだけで、胃の奥がきゅっと痛んだ。
まさか……先生や研究員たちって……。
「その人たちは……まだ生きている?」
言葉がかすかに震えて、語尾は情けなくぼやけてしまった。
「生きてるよ。首都ミカヅチにある本省の研究室にいる」
「そうか……よかった」
体の力が抜け、雨が降っているにも関わらずその場にしゃがみ込んだ。膝が、おもしろいくらい震えている。
そんな俺には構わず、ルネは首を傾げながら顔を覗いてきた。
「現在のその人物たちの記憶を読むと、今は、遺体に入れるための精霊を呼び出そうとしている」
やはりその実験をしていたのか。
舌打ちし、立ち上がった足でその場所をなぞる。
該当者の名前を教えてもらうと、行方不明になっている研究員のことだと発覚した。
霜月先生、霜月弘清、研究員六名の計八名を精霊の魔法で飲み込み、まるごと移動させたと思われる。
その場にいた八名以外の人間は、お嬢ちゃんと、あの大臣だけ。お嬢ちゃんは火属性特化型なので、十中八九、大臣が呼び出した精霊の魔法だろう。
「いや……待てよ」
眉間にしわが寄る。
魔法の使えない人間が、精霊とやらを召喚できるのか?
いや、先生に新たな実験をさせて、魔力の移植が成功していたとしたら……?
それなら説明がつく。
何を考えているのかお見通しらしい小さなカラスは、また首を振る。
「人間は五歳までに魔力の発生が認められない場合、どのような手段を用いても魔力は身につかない」
「そうか……」
「精霊が好意で人間に手を貸している場合はあるけど、魔力の持たない人間に懐く精霊は早々いないね」
調べれば調べるほど疑問が出てきて、めんどくさい。こんなに大変な仕事になるなら、最初から断ればよかった。
――でも、もう無関係ではいられない。
霜月優香がいるから。
雨足が強くなってきた。
ヘルハウンドに「このことは内密に」とルネが釘をさしてから、研究所の残骸から離れる。
長靴を履いていてよかった。草履なんか履いていたら、雨に濡れて冷たくなった足が紫色になっていそうだ。
「さて、帰ろうか」
ここでは、大臣がなんらかの方法で精霊を使役していることと、その場にいた霜月清輝、霜月弘清、研究員六名は確実に生きていることがわかった。
一番すぐに会えそうなのは、弘清さんか。
……状態がわからない以上、無闇に動いても仕方ないな。
カッパの下に隠していた和傘に腰掛け、自宅の方角へと指を向けた。
疲れた。さっさと帰りたい。
濡れた地面を蹴り、家路を急いだ。




