第14話 記憶の手がかり
抹茶を吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
――昨日?
霜月弘清と喋った?
どこで?
湯気の立つ茶碗の向こうで、景色がかすかに揺れて見えた。
頭の中が一気にざわつく。深く息を吸って吐いた。
――落ち着こう。こういう話は冷静に聞かないとだめだ。
乱暴になりかけた呼吸を整え、抹茶碗を静かに置く。
「……新聞では、霜月先生と息子さん、それに研究員たちが行方不明とありましたが」
「おお、そうだったね。でも弘清くんは、省庁の地下にある研究室にいるそうだよ」
思わず聞き返す。
「……地下に研究室なんてあったんですか?」
霜月先生たちは初めそこで勤務していたが、設備が足りなくて、あの離島に引っ越したそうだ。
「関係者以外の立ち入りは禁止でね。何をしているのかは知らないのだよ」
そう言って、丁寧に甘酒を飲みきった。
「霜月先生とほかの研究員もそちらに?」
「いや、それがわからないのだよ。一度も顔を合わせていないし、弘清くんも教えてくれなくてね」
だが、弘清さんが生きているとわかっただけでも進展があった。
先生と研究員もおそらくその研究室にいるのだろう。
……軟禁という形で。
霜月弘清が人との接触を許されている理由は不明だけど、妹と会わせる機会を作れる可能性がある。そうなればお嬢ちゃんは、兄がいたことを思い出せるかもしれない。
「もし可能でしたら、妹の優香さんと会えないか、聞いていただいてもよろしいですか?」
「戻ったら聞いてみるよ」
お嬢ちゃんの記憶が戻る手がかりになるだけじゃない。彼女が記憶を失った理由、霜月先生や研究員たちの失踪の真相。それを知るためにも、絶対に会わせないといけない。
真実が暴けるかもしれないという期待に、興奮している自分がいた。
***
ごちそうになり、店の外に出た。
今日、本部に来てよかった。この人から有益な情報を得られたのだから。
姿勢を正している鈴木官房長官に、深く頭を下げた。
「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
「いやいや。こちらこそ」
「また連絡する」と言われ、そのまま別れた。
官房長官がある程度離れていったところで、大きく伸びをしてから人の少なそうな場所に向かう。
今日は汽車に乗るのはやめて風に当たろう。
背負っていた傘に魔法をかけ、空中に舞い上がる。
……記憶にない兄に会わせるとなると、お嬢ちゃんは困惑するだろうか?
ついたため息は向かい風に流れて消えた。
でも、たとえ戸惑っても――彼女の過去を取り戻せるなら。俺は、その手を引く覚悟がある。




