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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
6章 判明

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第12話 もうひとつの名前


添えられていた黒文字を手に取り、『牡丹』を切り分けて食べてみる。

口に入れた瞬間に感じるしっとりとした口当たり。そして繊細な甘さが広がり、餡のなめらかさが舌の上でとろける。


とうさまの作る和菓子が一番好きだけど、この店のお菓子も上品でおいしい。



感動のあまり気分よく食べ進めていると、目の前の官房長官が、孫を見るような、やわらかな目をしていた。


え、なんでそんな目で見てくるの?

いや、たしかにお菓子に夢中になっていたけど。


思わず視線をそらして抹茶碗に手を伸ばす。



……まさか、こんなふうに政治の関係者と和菓子を食べながら話すことになるなんて。なんだか不思議な体験をしているな。


官房長官はみつまめに入った寒天を一つ食べたあと、目を伏せながら話し始めた。



「……わたしはね、きみに組合を辞めてほしくなかったのだよ。いっそカグツチに支部を設けようと言ったが、却下されてね」



人口千人以上で支部を設置するという規定があるが、カグツチ村は人口が少ないため、支部がない。

ちなみに、カグツチから一番近いのはシナツ西方支部に当たる。


いや……そんなことはどうでもいい。



えっ、まさか。


退職するまでやたらと引き止められたのって、この人が動いていたから?


……支部を作ってでも引き止めようとしてくるとか、どんだけ本気だったんだ。



心の中で突っ込みながらも、静かな喜びが、じわじわと全身を満たしていく。


今まで一度も会ったことがないのに、これほど評価されているなんて。こんなにも名誉なことがあっていいのだろうか。



「お気遣い、本当にありがとうございます。退職した身ではありますが、今後も気を抜かずに精進していきたいと思います」


「うむ。いい心がけだ」



魔導士の頂点といえば、二つ名を与えられることだ。


二つ名なんて、ずっと他人事だと思っていたけど……。


鈴木官房長官のあの顔を見たら、ちょっとがんばってみるのも悪くないかもしれない――そう思えるくらいには、気持ちが前を向いていた。



「ああ、そうそう……」



官房長官が思い出したように口を開いた。



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