第9話 予想外の展開
「花房さん。髪を軽く引っ張って、ちゃんと生えているか確かめてもらえますか?」
「あ、うん……」
髪を束にして掴み、引っ張っているが問題なさそうだった。
『やってやりました』みたいな表情で振り返る。
官房長官は、驚いて眼球が飛び出すんじゃないかと思うくらい、目を限界まで広げて呆然としている。
一方その横で、花房さんは喜び、軽く弾みながら長い髪を振りまくっていた。
踊っている花房さんを視界から消して、玲さんに目配せする。
「それぞれの町に行って、薄毛相談室を設けて治療していくというのはどうでしょう?」
「おお、いいんじゃないか? これからもっと忙しくなって、時間も取れなくなりそうだなあ!」
「そうですね。 ここに来ることも今日で最後かもしれませんね」
これだけ煽れば十分だろう。
官房長官の拳が小さく震え、目がさらに見開かれた。まるで言葉が出ないのを必死に堪えているかのようだ。
……怒らせたか?
「……なるほど、すばらしい技術だ」
あれ、意外。
「ありがとうございます」
「今日は本部が襲撃に遭ったというから様子を見に来ただけだ。それでは、これで失礼しよう」
これはまた意外だった。
怖いとか、俺に嫌悪感を抱いているとか聞いていたせいで、この人にいい印象はなかった。
……でも、意外と話せる相手かもしれない。
ただ、油断は禁物だな。
官房長官が立ち上がり、耳元でこそっと
「本部から出たら『茶房 和庵』に来たまえ」
と言われたので軽く頷いておいた。
そのまま去っていったのを見届けたあと、玲さんと目が合う。互いに無言のまま、バシッと手のひらを打ちつけた。
「やりましたね」
「ああ、やったな」
小声で言い合い、肩を叩き合う。張り詰めていた緊張が弾け、思わず笑いが漏れた。
冗談抜きで、薄毛相談室を開く羽目になりそうだ。
……これはこれで、新たな需要かもしれないな。
生えた髪を振り乱してうれしそうにする花房さんに目を向ける。
組合員時代、事務仕事たくさん教えてくれた花房さんへのお礼にはなったかな。彼のおかげで今、個人営業が問題なくできているのだから。
周囲の人たちも緊張から解き放たれ、その反動で一層な賑わいを見せた。
「ああいう人ほど、意外と口が軽いかもしれん」
「え? そうですか?」
「驚いた顔を見ただろう? 見た目に反して感情が表に出やすいのかもしれん」
「なるほど……では、気取られぬ程度に」
ちょっと、難易度高そうだけど。
――それでも、やってやれないことはない。
俺なら、きっと。




