第8話 将来への光明
お茶が運ばれるのを見届けたあと、口を開いた。
「つまらないことですが……わたくしの魔法で、薄毛治療ができるということが判明しまして」
湯呑みを持つ手が止まる。
――よし。興味が湧いたようだ。
官房長官は年齢の割に毛量が多く見える……が、それは上手に作られたカツラではないかという噂があった。どうやら事実らしい。
「周囲に髪の悩みを抱えた方がおられなくて、本部に立ち寄らせてもらいました。もしかしたら、困っている方がいるのではないかと」
周囲に髪の悩みを抱えた人間がいない?
……いや、さすがにそれは言いすぎたか?
官房長官が眉をひそめたりしたらどうしよう。
――回復ができる属性は光と闇。
那智と同じ光属性は、怪我と魔力の回復ができ、闇属性は病気の緩和と状態異常を回復することができる。
薄毛治療はどちらにも当てはまらないみたいだから、魔法での回復はみんなが諦めてきたことだろう。
それがもし、解決できるとしたら?
若い頃はいいが、年齢を重ねた自分の髪の毛を案じなかった男はいない。
口からの出任せだけど、俺の頭皮が寂しくなったときのためにぜひ身につけたい技術だ。
しかし……本当は薄毛なんて治したことないけど、どうしよう。
にこにこと、対人向けの笑顔を絶やさず横に立つ玲さんが、誰かに手招きする。やってきたのは、頭頂部が薄くなってきたのが嫌で坊主にしている花房さんだ。
……まさか実演しろと?
一瞬、頭が真っ白になった。
冗談じゃない。俺は魔法で薄毛治療なんてしたことないんだぞ……!
「どうだユウナ。鈴木官房長官の前でやってみては」
「……ええ、ぜひ」
髪の伸び方なんて知らない。どうするんだ。
一世一代の危機に、脳内の俺が混乱して転げ回っている。
……髪の九割以上はたんぱく質だと聞いたことがある。
花房さんの毛根にたんぱく質を流せばいいのか?
そんなことで今すぐ伸ばすのは不可能だ。
ええいままよ。
高校時代に言われた霜月先生の助言を信じよう。
花房さんの頭に手をかざした。
「――生えろ」
手のひらから、淡い金色の光が滲み出た。まるで春の陽射しのように、静かに花房さんの頭に降り注ぐ。
「うわあっ!?」
しゃがれた悲鳴とともに、頭皮から黒い髪が蔦のように蠢きながら生えてくる。
肩を越える長さにまでなった頃には、場にいた誰もが言葉を失っていた――。
……すごい。
難しいことは一切考えずに、ただ生えてほしいと念じただけで実現した。
霜月先生……卒業してから、やっと、やっとみんなと同じように魔法を発動できましたよ!
胸の奥がじんと熱くなる。
今は焦りと驚きが勝っているが、あとから涙が出そうな気がした。




