第7話 絶対絶命のピンチ
二人の間に割って入るように、結界魔導士の橋下さんが、茶髪の長いお下げ髪を振り乱しながら走ってきた。
事情を聞くよりも先に、懐に資料を突っ込んだ。
「どうした美桜、何があった」
「それが……」
ちらと入口の扉に目を向ける。
二人でそれを追うと、ちょうど扉が開いた。
なぜ……ここに?
ぎょっとしてしまって、呼吸が一瞬止まってしまった。
人事や統計の事務を扱う局の長、鈴木官房長官が手をうしろに組んだ状態で入ってきた。
この人は――神屋大臣の部下だ。
彼は建物内を見渡したと思ったら、俺の姿を捉えた瞬間、目を鋭く細める。
「……なぜ、組合を辞めた者がいるのかね?」
「なぜ?」と聞きたいのはこちらの方である。今までここに来ている姿を見たことなかったぞ。
肉をそぎ落としたような細身の体。身につけたスーツは暑さをものともしないほど隙がなく、折り目すら乱れていない。
まるでその姿ごと、この場を支配しているかのようだった。
目つきは鋭く、何かを見透かしているようだ。その厳しい表情と相まって、威圧感を与える。
この人は……組合を抜けた俺に嫌悪感を抱いていると、もっぱら噂があった。
辞めるのに手こずったのもこの人のせいだと。
関わったこともないのに失礼だな、と思ったことが何度かある。
まあ、変な能力とハーフのせいかもしれんが。
組合内の空気がしんと静まり返る。
「……質問に答えてはくれんのかね、小鳥遊」
「ああ、すみません。今日来られると連絡がなかったものですから。驚いてしまって」
椅子から静かに立ち上がる玲さん。官房長官の目の前に立ち、にこやかに微笑む。
『何しに来たんだ?』みたいなその顔が怖い。組合員全員が震え上がったことだろう。
「立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
……玲さんが時間稼ぎしている間に何か考えないと。
……俺が火災の件でここにいたって知られたら、かなりまずい。
大臣の耳にでも入ったら、本部ごと吹き飛ぶ。
頭が真っ白になって、呼吸が浅くなる。
何か……手はないか。
うっすらと額に汗が滲み、浴衣が肌に貼りついた。
――官房長官は、仕事を完璧にこなす機械人間と言われていたっけ。
だからって感情がないわけでもあるまいし、好きなこと、気になることがあるはずだ。
たしか……官房長官には、ある噂があった。
本当にそれが事実なら……いや、藁にもすがる思いでいい。これが突破口になれば――逆に、味方についてくれるかもしれない。
緊張しすぎて、顔の筋肉が引きつる。
……いや、違う。
これならいける、そう思った瞬間、口の端が上がったのかもしれない。
見られていないことを願おう。




