第55話 追い風の希望
お嬢ちゃんは暖炉の近くで、オオツチ支部の魔導士と一緒になって、火の魔法の講義をしていた。
組合員が、光の粒のような無数の火の粉を出しながら何かを説明し、彼女がその火を再現しようとしているらしい。
その近くの椅子に座る白猫が、たぶん話をちゃんと聞いていないくせに、いかにも物わかりがよさそうに頷いている。
その光景に思わず口元がゆるんだ。
ほっこりするな……あの組み合わせ。
そこに那智が乱入して、最初から聞いていましたという体で話に加わる。
俺は講義の輪から少し離れた場所で、ただ黙ってその様子を見ていた。
気づけば、玲さんが静かに隣に立っていて、俺の視線の先を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
「霜月さんの娘、いい子じゃないか。大事にしろよ」
「そうですね」
あの子にかけられた魔術を解いてやりたい。
だけど、神屋魔法大臣に勘づかれないよう慎重にならなければ。
それに、あの火災の原因――あれも大臣と関係がありそうだ。
二の足を踏んでいる場合じゃない。
「玲さん。鳳さんと連絡がとりたいんですけど……」
「魔術とやらについてか。わかった。なんとかしよう」
ワタツミ支部で手に入れた調査結果の写しと、自分がまとめた調査資料を郵送すると伝え、楽しげに話す彼女の元に向かった。
「そろそろ行こうか。帰りにお菓子でも買って帰ろう」
「はい。何にしようかな……」
「うん、行こー」
ソラが肩に乗ってくる。
その場にいた人間に別れを告げ、駅に向かう道すがら、駄菓子屋に寄った。
「いっぱいありますね。どれにしよう……」
うーんと首を傾げて真剣に悩む彼女に目を奪われながら、自分用と妖精二人の分を適当に選んでいく。
「あ、そうだ。今日天気もいいし、帰ったら田んぼ仕事あると思うけど……疲れてるなら休んでていいよ。せっかくの連休だし」
「大丈夫ですよ。朝食作った罰ですから」
お嬢ちゃんが微笑んだ。
頭の上で「ぼくは家でごろごろする仕事がある」と、ソラからは不参加を告げられる。
まあ、着いてきてもこの子はすることないけどさ。
――俺が言霊を使ったせいだけど、清々しい晴天だ。
穏やかに吹く風が背中を押してくれているように思えて、不思議と胸が軽くなった。
これまでの不安や、彼女の魔術に対しての無力感が、ほんの少しだけ遠のいていくようだった。
ちゃんと前に進めている。そんな気がした。




