第53話 追跡の同調者
俺が変な顔でもしていたのか、那智に鼻先を弾かれた。
「調査の打ち切りが決まって、『はい、そうですか』って納得できるわけないだろ。組合にいる以上頻繁に調査はできないけど、秘密裏に進めてきたんだ」
……あまりにも危険だ。
もし見つかったら、組合の人間ごと大臣に粛清されるかもしれないのに……。
しかも、組合はある意味で大臣の下僕のような立ち位置でありながら、そんな、主人に逆らうような真似をして。
「みんな霜月さんには、何かとお世話になってるからね」と陽菜。
「……バレたら首では済まないですよ」
今なら俺の魔導士生命……もしくは命ひとつ落とすだけで済むかもしれない。
にも関わらず、本部の人間まで手伝っていると知られたら……想像もしたくない。
「我らが消される前に、大臣を引きずり下ろせばいい」
すごいこと言っているけど、そんな無茶を真顔で言えるところが、この人のすごいところだ。
実際、玲さんが責任者だからこそ、本部の魔導士はみんなついていきたいと思っているはずだ。
じわじわと、心の中が温かくなっていくような感覚がある。
――ああ、そうか。
俺も不安だったんだ。
事件の真相を知るのも、大臣から何かされる可能性があるのも。
でも、今はみんなが力を貸してくれる。これほどうれしいことはない。
「ありがとうございます……ご協力のほどよろしくお願いいたします」
「おまえ相変わらずお堅いよなあ。今月は立て込んでるから、来月にでも資料取りに来てくれ」
那智と陽菜の二人と自宅で飲んだときは、関係資料をすべて捨てられたと言っていたが、実は写しを隠していたそうだ。
俺が大臣に告げ口することだってあるかもしれないから、念のため黙っていたのだろう。
そういえば……ワタツミ支部元責任者の細淵さんの資料では――十年前、魔力を移植した際に起きた、研究所の爆発事故について『体調不良と爆発の関係は調査中』と書いてあったが……。
昨日病院で、那智に「体外に魔力を抜くとどうなるのか」と質問したときに答えられたのは、調査を進めていたからだったのか。
俺よりちゃんと仕事してるな……。
考えごとをしていると、陽菜が目を細め、不審人物でも見るかのように睨んできた。
「ユウナ、来るときは絶対に前日までに連絡してね。絶対」
「あー……わかった」
……そういえば、本部は俺のせいで大変な目に遭ったんだったか。
あのときの焦り、絶望――当時のことを思い出して気まずくなり、無意識に首の後ろをさすった。
あのときの罪悪感が、まだそこに残っているような気がする。
まあそれは置いておいて、思わぬところで強い味方がついてくれた。
いい方向に進んでいく予感に、自然と背筋が伸びる。
よし、がんばろう。
みんなで部屋を出ようとしたとき、急に那智に襟を掴まれ、首ががくんとふらついた。
「すみません。こいつにちょっと言っておきたいことあるんで、先行っててもらえますか?」
玲さんと陽菜はそれに了承し、さっさと部屋を出て行った。
二人がいなくなった途端に、ひりついた空気を察知する。
「――おまえなあ」
いきなり呆れた声が飛んできた。
説教でも始まりそうな文言だ。
……心当たりが多すぎて、何に怒られるのか検討もつかない。
とりあえず、覚悟だけは決めておくことにした。




