第52話 背中の温もり
ソラを迎えに行って帰ろうか、とくるりと方向転換する。
一歩踏み出した瞬間――背中に、ふにっとやわらかいものが押しつけられた。
なんだ?
視界の下の方に現れた違和感に目をやると、腹部には細い腕が――は……え?
「なっ……あ……」
口の中がからからに乾いて、まともに声が出ない。
「お、お嬢ちゃん……?」
ちょっと、え?
なになになに?
何がどうなっている?
頭が追いつかないまま、心臓がバカみたいに跳ね上がり、全身の血液がおそろしい速さで駆け巡った。
――顔が熱い。
せめて何か言ってほしいのに、お嬢ちゃんは無言だ。
抱きつかれた腕の力は弱くて、どこか頼るような、すがってくるような感じに思える。
数回深呼吸を繰り返し、顔の熱が引いたところで彼女の腕を剥がす。
手首を掴んで引っ張っていき、支部の方に歩き出した。
「……気軽に抱きついたりしたらだめだよ」
返事がない。
ちらと盗み見たら、少ししょげている。
……対応間違えたか?
いや、でもあのあとどうしたらよかったんだ?
女性と関わることがなさすぎて、この子にかわいそうなことをしてしまった気がして、もやもやが晴れない。
***
オオツチ支部に戻ると、ソラがすぐ来てくれた。が、その背後には、どうとっていいのかわからない表情のミカヅチ本部の三人が立っている。
玲さんが不気味に笑顔を浮かべながら、親指でさっきの部屋の方を指さす。
――ああ、神様。
会ったことはないけれど、こんなときくらい頼らせてください。
胸の中でそう祈りながら、俺はお嬢ちゃんとソラを再び置き去りにした。
――取り調べ室。
さっきまでここで飯島とお喋りしていたはずなのだが、やけに窮屈に感じる。人数が増えたとか、そういう意味ではなく。
……それにしても、この居心地の悪さ。犯罪者になった気分になるな。
じっと黙っていた玲さんは、頭をがしがし掻いた。
「春日井校長からの依頼か?」
二年前の霜月研究所火災について問われている。
まあそうだよな。
神屋大臣に見つからないように立ち回っているせいか、組合の人間にはそのことを話していなかったから。
「……ええ、まあ……そんなところです」
部屋には四人もいるはずなのに、空気は凍りついたように静まり返っていた。
禁じられた事件を追っていたと知って、三人の視線が一斉に俺へと突き刺さる。
気まずい。今すぐ逃げたい……。
「どうして言わなかったんだ。ひとりで抱え込むなよ」
玲さんは、声を荒げるでもなく、静かにそう言った。
「……え?」
何を言っているんだ……?
組合はこの件についての調査は中止されたはずだ。




