第49話 魔力の交錯
「霜月弘清さんについて調べたいのですが、何か書類とか、写真を保管してある場所はないですか?」
研究所兼家が燃えてしまったから、家で保存していた写真とかは雨ざらしになってぐちゃぐちゃだろう。
学校なら、卒業生の写真が残っているかもしれない。
「目立つの嫌がる子だったから写真はとくに……まあ、通っていた学校くらいなら」
やはり魔術学校ではなく、一般高校の名前だった。
学校名もわかったことだし、一歩前進したかな。
立ち上がろうとすると、手のひらをこちらに向けて「待て」と言われた。
「昨日、優香ちゃんの魔法をくらってわかったんだが……あの子の魔力、香代さんの魔力と混ざっているぞ」
混ざっている――?
胸の奥がざわついた。
「移植によって体内には、母親である香代さんの魔力と本人の魔力が二つ存在していた。だが――」
嫌な予感が、言葉の意味を理解するよりも早く広がっていく。
「金の炎を発動したとき、母親の魔力はすべて消費され……さらに足りない分は、優香ちゃん自身の魔力が使われたんだろう。そのあと自然回復する際に、二つが絡み合ってしまった可能性が高い」
魔術に侵されている母親の魔力と、潔白だった自身の魔力が完全に混ざったとなると……最悪なことしか思い浮かばない。
「そうなるとどうなるんですか……?」
声が震える。
聞きたくないのに、知りたくて仕方なかった。不吉な予感に唾を飲み込んだ。
「憶測にすぎないが、魔法を使うたびに“母親から受け継いだ魔術”も一緒に発動してしまうかもしれん」
頭の中が真っ白になる。
――魔法を使うたびに、魔術を発動している?
「そんなに過度に使用された例は今までなかったから、正確にはわからんが。もしかしたら、香代さんのときよりも魔術の影響を受けているかもな」
けど、飯島は生きている。
まさか……『二十歳まで生きられる』という呪いは、霜月香代の血族にしか効果が発動しないのか?
魔法くらった飯島ではなく、お嬢ちゃん本人に降りかかっているということなのか?
そんな理不尽があっていいものか。
「……それは、魔法を使えば使うほど、寿命が縮むと?」
「その見込みは十分にある」
そんな……。
胸の奥がざわめいて、鼓動が早くなる。
頭が揺れるような感覚。血の気が引くのが、自分でもわかった。
たしかに昨日の戦闘を思い出すと、火柱で攻撃したにもかかわらず飯島が無傷だったり、槍で脇腹を貫いたはずがポケットに入っていた薬だけ破壊したり。いくら器用でも、そうはならない。
金炎には、限定的燃焼効果があるみたいだから、二人の魔力が混ざった影響のせいだと考えれば辻褄が合う。
「移植した時点で混ざってしまった、ということはありますか?」
祈るような気持ちで尋ねた。
もしそうなら、今の状況は避けられなかったのだから。
「いや、移植したときは体内に、本人の魔力と提供者の魔力の二つがあったのは確認済みだ。定期検診のときもその兆候はなかった。混ざったのは……おそらく二年前の火事だ。本人の意思とは関係なく、魔術は感情によって発動する」
「感情で……?」
「ああ。魔術は、理屈じゃなくて感情が引き金になるんだ。怒りや悲しみ、そういう……どうしようもないものが。だから定期検診の日、優香ちゃんにとって嫌なことがあったから、勝手に発動したんだろうよ」
そんなの、防ぎようがないじゃないか。
「今、完全に魔力が混じっている状態だと考えると、体内にある優香ちゃんの魔力に縮小化の薬を使ったところで……効果は低いだろうな」
重く沈んだ言葉が、深々と胸に突き刺さる。
――彼女は、寿命を削り続けている。本人の知らないところで。
助けたいのに、どうすればいいのかわからない。
ただ、恐怖と怒りと絶望が綯い交ぜになって、心臓を締めつけていた。




