第48話 死体の用途
雰囲気のいい職場で居心地はよかったから、お嬢ちゃんの魔術に関することを黙っておくためとはいえ、供述として使ったのは申し訳なかったと語る。
「……自分から頼んでおいてなんですが、言ってよかったのですか?」
神屋大臣……何をしようとしているのか、本当にわからない。
それに、これから収監されるとはいえ、牢屋の中で何か起こっても飯島を守ることができない。
細淵さんに告げ口した研究員のように、この人が行方不明になったら……絶対後悔する。
「ああ、いいよ。あんたなら解決してくれそうだからな」
危険を承知で話してくれたのだろう。彼の覚悟を無駄にはできない。
自分の拳を、膝の上で強く握った。
にこやかに微笑む様子を見たところ、相当この話題に参っていたのかもな。やっと誰かに言えた、という感じか。
突然「ああ、そうだ」と思い出したように口を開く。
「火事の前日。所長は大臣に、新たな実験をするよう言われてたんだ」
目の前の男は急に真剣な目つきになった。
「――死んだ人間の体に、精霊を入れることができるのか、と」
――なんだ、それは?
『死んだ人間の体に、精霊を入れることができるのか』……その言葉が、背中を殴るような衝撃になってのしかかる。
人を生き返らせる……?
いや、それとも、“器”として使うつもりか?
ぞっとし、冷たい汗が首筋を伝う。
だけど、その意味を聞く前に――
「……話の腰を折るようで申し訳ないのですが、精霊とは?」
「え? ああ。魔法獣とは別のもんで、別次元にいる霊的な存在だな。俺も詳しくは知らないが、精霊は強力な魔力を持っていて、うまく扱えば人を癒やしたり、魔法の強化ができるらしい」
この世にそんなものも存在するのか。
まあ別次元って言っているし、それほど関係ないだろう。
「怒っていたよ、所長がめずらしく。だからその件は電話で断っていたが、翌日の定期検診に大臣が来たってわけよ。たぶんその実験をやれって催促だと思うが」
大臣の目的に検討がつかない。
悩みすぎて、思わず唸り声が漏れた。
しかし、その精霊とやらは火事と無関係じゃないか?
……いや、そう決めつけるのは早計か。一応、気に留めておこう。
検診後、お嬢ちゃんが魔術を使ってしまうほどの出来事が何かあったんだ。
衝撃的な何かが……。
「現場に居合わせていたらなあ。優香ちゃんは何か言ってなかったのか?」
「それが……彼女、記憶操作されているみたいで。当時は友人の家に泊まっていたと言っていました」
これには驚いたようだ。
兄のことも忘れているようだと伝えると、悲壮感に満ちた顔をした。
「そうか……あんなに仲がよかったのにな」
彼は、古い記憶を思い出すように目を細めた。
「……研究所に、記憶操作するような機械はありますか?」
「ないな。もしあっても、所長が弘清くんの記憶を消すとは思えない」
そうだよなあ。
腕を組み、長いため息をつく。
お嬢ちゃんが、兄を忘れたまま生きていくなんて……そんなの、かわいそうだ。
だが、彼女が真実を知ったとき、どれほどの悲しみを抱えることになるのか。
――いや、それ以上に。
思い出すことができなかった今の彼女の方が、もしかしたらもっと哀しいのかもしれない。




