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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第47話 冷厳の箝口令


「香代さんの魔力に絡みついている件の魔術は、優香さんの魔力の方にはいかなかったのですか?」


「ああ。優香ちゃんはそのとき、一度も魔術を発動していなかったおかげもあるが。香代さんの魔力の方に滞留し続けたんだ」



香代さんの魔力を移植したあと、思惑通りにことは進み、『二十歳まで生きられる』という魔術の呪いから免れることに成功した。


本人の魔力に絡みつかない限り、影響は受けないということだろう。



だけど、母親の命と引き換えだ。

……代償が大きすぎる。


なんで……こんな方法しかなかったんだよ。



言いようのない悔しさが込み上げる。



「……じゃあ、話の続きな。二年前のあの日、大臣が一人で研究所を訪ねてきた」


「――大臣が?」



思わず身を乗り出す。



「まあ、それ自体はよくあることなんだ。その日は、優香ちゃんに移植した魔力の状態を確認する定期検診の日で……大臣も、魔力の流れを興味ありげに見ていたな」



一度ため息を吐いた。

手枷のはまった両手を机に乗せ、前のめりになる。



「俺は現場を離れて別の実験に入ったから、直接は見ていないんだが。いつも検診が終わっている時間帯に、優香ちゃんの悲鳴がしたんだ。聞こえてたやつは全員駆けつけたと思う。部屋に入った瞬間――金色の炎が上がった」



それは、炎というより――何か異質な存在に近かったと、彼は言った。


金炎が一気に天井を這い、床を舐めるように広がっていく。誰がどこにいるのか、もうわからない。

そんな状況の中、飯島は持てる物だけ持って、必死に出口を目指した。


そして、研究所の外に出て、魔法を駆使して港近くにある消防士の元に向かったそうだ。



通報したのはあんたか。


そのとき持ち出せたのが、肥大化の薬だったと。



「俺含め、外に出られたのは十人だ。けど、冷静になってみたら……あの炎、全然熱くなかったな」



炎に包まれたのに皮膚が焼かれない。


煙も出ない。


研究所以外のものには牙を剥くことがない――特殊な力。



「あのとき、魔術を見たのは初めてだったが……助けに行こうと思えば行けたはずなのにな」



飯島は自嘲するように笑ったが、その表情の奥に、恐怖が滲んでいた。



消防士に声をかけたあと、再び研究所に戻り消火活動をしようとしたとき。神屋大臣が、炎の中から無傷で現れた。


その姿を見た瞬間、背筋がぞくりとしたと言う。


まるで、金の炎が意志を持って避けるように、彼の進む道を開けた。


大臣が何か力でも使ったのだろうか?



「この日の出来事は、誰にも話さないように」



そう、大臣は低い声で言った。

目が笑っていなかったのが印象に残ったそうだ。



しかし、一人の研究員が、正義感からか……それとも恐怖からか。

当時のワタツミ支部責任者の細淵ほそぶち仁英まさひでさんに、火災の原因を告げてしまった。


その後、その研究員の行方はわからなくなったとのこと。


告げ口した研究員は神屋大臣に消されたのだと思い、飯島は怖くなってしばらくは家に篭っていた。

けれど、何ヶ月経っても報復も何もなく、収入を得るため新しい職場で働くことにした。



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