第46話 魔術の糸
「そういう問題じゃないだろう。あんた、このことが知られたら……命を奪われるかもしれないんだぞ」
飯島の声は震えていた。
何を言われたのか知らないが、大臣に相当恐怖を抱いている。
その姿を見ると、消される可能性があることが真実のように思えてくる。
だが、俺の意思は変わらない。
「まあ、そのときはそのときで……。引き受けた仕事を、絶対に解決させるのが魔導士の役目ですから。命が危うくても、やるべきことは変わりません」
お嬢ちゃんが魔術を発動させてしまった原因はなんだったのかとか、なぜ大臣はこのことを隠したがったのかとか、知りたいことは山ほどある。
だけど本音を言えば、彼女の呪いを解きたい一心で動いているだけ。
散々つらい目に遭ってきたのに、魔術のせいで寿命まで縮められるなんて……そんなの、あんまりだ。
唇を強く噛んだせいで、口の中に鉄の味が広がった。
――彼女には幸せな日々を送ってほしい。
笑って、怒って、たくさん喋って、寿命で生涯を終えてほしい。
そう思えるくらいには、他人事にできなかった。
「おい、いいのか……」
「ええ。お願いします」
飯島はしぶしぶという感じで話し始めた。
「十年前の爆発事故は知っているか?」
「はい」
お嬢ちゃんが短命になる魔術を負っていたため、母親である霜月香代の魔力を移植。
その直後に、香代さんは体調不良を訴えて……そして、魔力が暴走。
そのまま魔力が枯渇し、亡くなってしまった。痛ましい事故だ。
お嬢ちゃんから『母親は五歳のときに他界した』としか聞いていないが……その事故のことも忘れていたらいいと、願わずにはいられなかった。
――そのとき、記憶の底から、一つの疑問が浮かび上がってきた。
「魔力を移せば魔術の効果を打ち消せると、どうやって気づいたんです? 過去に同じようなことをした人物がいた、とか」
「いや。魔力の移植は所長が編み出した方法で、それ以前は存在していない技術だ」
話を聞いた途端、内心で息を呑んだ。
魔力の移植なんて、誰かが前例を作ったものかと思っていたのに、先生が独自に作り出した技術だったとは。
それだけの新技術を思いつき、さらに実行に移していたなんて。本当に、あの人は天才なんだな。
飯島が続ける。
「まず、優香ちゃんに魔力があることがわかった段階で、波長を調べたんだ。母親の香代さんと波長が合わなかったら、魔術を受け継いでないんじゃないか、ってな」
「……でも、ぴったりと合った、と」
「そう。それで諦めかけたところに、ある研究員が『だったら、母親の魔力を娘に移せば、魔術が絡みつく隙間を埋められるんじゃないか?』と提案したんだ。これだけ波長が合うなら……拒否反応は出ないだろう、と」
魔術は、魔力に絡みつく形でかかるらしい。まるで、絡まった糸が人の手から離れないみたいに。
だから、母親の魔力で娘の魔力を覆い隠せば、その糸は引っかかる場所を失い、呪いが入り込む余地がなくなる。
つまり、『二十歳まで生きられる』魔術の効果を無効化できるかもしれない。
それが、霜月先生の考えた方法だった。




