第45話 封印の残滓
お嬢ちゃんがこの薬の存在を知らなければ、この事件に関して疑問に思うことはなかった。
魔力の肥大化の薬は、普通に作られてもおかしくない代物だ。
少ない魔力を増やすことができるのだから。
ただ、縮小化の薬が失敗したから作られた薬……と言われると話は別。
「でも、研究所が燃え、霜月先生も行方不明の今、それを試すことができない。このままでは魔力縮小の薬までたどり着くことができないと判断したあなたは、個人で実験を進めようとした」
初めは魔法獣で薬の効果を試し、次は生きた動物に。最後は自分に投与して人体実験をした。
「……まあ、憶測ですけどね」
俺は沈黙する男を無視して、さらに言葉を続けた。
「今のままでは、あの子は魔術のせいで早くに亡くなってしまう。それを防ぐためにあなたは、彼女に攻撃を加えてまで逃亡し、縮小化の薬を作りたかった」
そう言って背もたれに身を預ける。
これで違っていたらどうしよう。
今回の件についても、火災についても話してくれるかわからないのに。
指先の震えを悟られないように、静かに手を組んだ。
「どうです? 俺の推理は当たっていますか?」
ひどく困惑した様子の飯島は、目をあちこちに泳がせて、眉間に深いしわを作る。彼の態度を見る限り、正解らしい。
これって結局、女の子ひとりを救うために起きた事件だったってことだ。
……そこまでしてお嬢ちゃんを助けようとするなんて。まったく、頭が上がらないな。
「……なんで、魔術のことを知っているんだ?」
返ってきたのは、か細い声だった。まるで化物でも見るような、怯えた視線を感じる。
さて、どうしよう。
「知恵の神を参考にした魔法獣から聞いた」なんて言っても信じてもらえないだろう。
カラスのルネの存在は、あまり公にしないでおくか。
代わりにどう答えるか悩んだ。
「んー……優秀な協力者がいる、と言えばいいでしょうかね」
煮え切らないような表情をしている。
「では本題に入ります」と前置きをすると、まだ何かあるのかとぎょっとした様子で見てくる。
正直、この事件の真相についてはおまけみたいなものだった。本題に入る前の前座くらいの気持ちで。
それではいよいよ、組合では禁忌とされてきた火事について質問だ。
「実は……二年前に起きた霜月研究所の火災の調査をしておりまして。よかったら、当時なにがあったのか教えてもらえませんか?」
こちらからは見えないが、隣の部屋で玲さんが「こら! 止めろ!」とか叫びながら押し寄せているに違いない。
……引っ叩かれる前に知りたいことを全部言ってほしい。
「そ……それは……」
「ああ。もしかして、組合員に話したりしないよう、神屋大臣に言われましたか?」
飯島はとっさに身を乗り出していた。
春日井先生同様に、やはり何か言われていたな。
「おまっ……一体どこまで」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
にやりと笑い、肩をすくめてみせた。
「――自分は組合員ではないので」




