第42話 灰の記憶
オオツチ支部は、陶芸好きの達人が住んでいそうな、山小屋風の建物だった。
厚い木の扉を開けた瞬間、木の香りがかすかに鼻をくすぐり、組合員たちのやり取りが聞こえてきた。
階段の手すりには彫刻が施され、素人目にもわかる高そうな木材が使われている。
魔導士が次の仕事の打ち合わせをしている。話し声が響くたびに、壁にかけられた石油ランプの灯が揺れ、窓辺の鹿の角飾りがかすかに影を落とす。
昨日の巨大生物事件の影響か、忙しそうだ。
「おはようございます。魔導士の利他ですけど、熊山さんおられますか?」
近くにいた人に声をかけ、オオツチ支部の責任者を呼んでもらった。
退屈しのぎで建物の奥の方に目を向けると、今の時期は活躍していない暖炉が置いてあった。
冬になったらここで、のんびり温かい飲み物でもすすりたい。暖炉で餅を炙って……あんこと一緒に食べるのもいいな。
数分後、手巾で額を拭いながら小走りでやってきた熊山さん。眼帯が相変わらず痛々しい。
「おはようございます。昨夜はゆっくりおやすみになられましたか?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
それはよかったと、彼は短くため息をつく。
そのあと案内されたのは取り調べ室。
部屋の真ん中に机と椅子が二脚あり、片側の壁に大きな鏡が張られている部屋だった。
今は誰もいないが、あとで誰かが飯島を連れてくるのだろう。
「こちらからは鏡に見えますが、向こうは部屋になっておりまして、取り調べの様子を見学できるようになっております」
「こんな立派な取り調べ室があるなんて、まるで警察署ですね……」
ミカヅチ本部にある取り調べ室はとても狭い。
机の角を壁にくっつけて設置されているので、相手と斜めに座らなければならない。たまに膝同士がぶつかって、気まずい空気になるおまけまである。
それに比べると、ずいぶんとゆとりの持てる部屋だ。
一度部屋を出て、お嬢ちゃんとソラを熊山さんに任せて、鏡の向こうの部屋を覗きにいった。
部屋にはミカヅチ本部おなじみの二人と、なぜか責任者の玲さんもいた。
軽く会釈してから、ゆっくりと取り調べ室へ戻る。
――いよいよだ。
二年前の研究所の火災について、ようやく真実がわかる。
……本当に聞いてしまっていいのか?
緊張で鼓動が早まり、手のひらがじっとりと湿っていた。
喉が乾く。金縛りのように身体が痺れ、肩が凝りそうだ。
少しして、手枷をはめた飯島が連れてこられた。
昨日より顔がやつれているように見えるが、熊山さんに、徹底的に絞られたのかもしれない。
もしかして、眼帯を外したら……鋭い傷跡でも残っているのだろうか。
案外武闘派だったり……?
先ほどの穏やかさを思い出しながらも、そんな妄想が頭をよぎる。
……いや、まさかな。
でも、もしそうだったらちょっと怖い。




