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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第41話 言霊の使い方


風呂のへりに肘をつく。


――昨日、言霊というか呪文みたいなもので魔法を発動できたわけだが……頭の中の情報はどこまで再現できるんだろう?


形がある程度決められている物体とかなら、指を鳴らせば一応出てきてくれる。


……ただ、風とか水とか、形が常に変わるものは再現できない。たとえば、この風呂のお湯とか。


でも、言霊にしたらあるいは?



きょろきょろと辺りを見渡し、言葉で伝えやすそうなものを探す。


案外思いつかないな。



不意に、目の端に雨が入った。


ああ、ちょうどいいのがある。


実験で、右手の人差し指を空に向かってくるくる回す。



「雲一つない晴れた空が見たい」



しんと静まる。


風とか起こるかと思ったけど……何も起きないか。



そう思った瞬間、空を覆い尽くしていた雲にぽっかりと穴が空いた。穴はみるみる広がり、あっという間に雲が消え去ってしまった。


視界が一気に開けて、まるで神様に空を割られたみたいだった。



「え、まじで……?」



晴れた!

嘘だろ!?


驚いて危うく溺れそうになった。いや、そんなことはどうでもいい。


すごいぞこれ!

おもしろい!



さらに腕を伸ばし、指で横に線を引く。



「直線の虹が見たい」




***




朝食の時間になった。


料理を運ぶ仲居さんが興奮した様子で、突如現れた一直線の虹について話始める。お嬢ちゃんもそれについて楽しそうに語るが、こちらとしては気まずかった。

この子が起きたのに気づき、虹を放置して風呂から出たのが原因だ。


今まで発動していた魔法のように、自分が消そうと思わない限り永遠に出現し続けることがわかった。

おかげで旅館中で大きな騒ぎになってしまった。


仲居さんが部屋を出ていき、お嬢ちゃんが若干、不審者を見るような目つきでこちらを見る。



「あれ、《《ユウナさん》》の魔法ですよね」


「……はい」



つい出来心で……。


視線のやり場に困り、味噌汁の湯気をじっと見つめる。正面の席からの視線が突き刺さるようだ。


ん?

今、下の名前で呼ばれた。



俺の隣に座るソラが、じっと見てくる。

ついにそのときが来てしまった、みたいな顔をするな。俺はまだ覚悟ができていないぞ。



虹に心の中で“消えろ”と命じて、この件はとりあえず終わりにした。





食事を終え、お嬢ちゃんは襖を隔てた部屋で着替え中。


昨夜、妖精たちが「荷物は任せて!」と張り切っていたので、今朝起きたらすっかり片付いていた。


俺の今日の服装は灰色の無地、帯は昨日お嬢ちゃんに貸していた白い半幅帯だ。



彼女を待つ間、ソラが退屈そうにしていたから、紐を数本出して遊びまくった。





ゆるめのシャツに黒の細身のズボンを履いたお嬢ちゃんが出てきたので、紐を引っ込めると、ソラが「もっと遊べ」と言いたげにじとっ……と、青い目で睨んでくる。

そんな反抗的な猫ちゃんを抱えて部屋を後にした。



最後に外の店をもう一回見ていこうかと思ったが、朝早い時間にはどこも営業しておらず断念。

名残惜しく旅館の門を振り返りつつ、オオツチ支部へ向かった。


いい旅館だった。

……また来られるといいな。



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