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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第40話 布団のアルマジロ


こちらも前から思っていた疑問をぶつける。



「お嬢ちゃんだって、俺のこと苗字で呼ぶじゃないか。陽菜と那智のことは名前で呼ぶのに」


「お二人は、下の名前で呼んでって言われましたので」



さすが、対人慣れしている人間は最初から言うことが違う。

そんなこと他人に言ったことないぞ。


「あ、じゃあ!」と、いたずらを思いついたみたいに、彼女の表情がぱっと明るくなる。



「これからは『ユウナさん』って呼びますね。だから、わたしのことも名前で呼んでください」



はい、どうぞ、って……なんだそのわくわくした顔。名前呼びを待たれるとか、なんの時間だよ。



「えー……お嬢ちゃん」


「なんでですか」


「……二人ともうるさい」



熟睡していたはずのソラに怒られたので、二人で慌てて布団をかぶって眠ることにした。




***




起きた。


ゆっくり布団から這い出て愛猫の姿を探す。

ソラは近くの枕の上で、お腹を開いた状態で熟睡している。

口元から牙がちらっと見えるのがかわいい。



隣の敷布団からは、お嬢ちゃんがいなくなっていた。先に起きたのかと思ったら、布団の塊から足が一本見える。


そっと覗くと、襖を越えた先の畳の上まで転がり、丸くなって寝ていた。

そっと転がして、敷布団に乗せておく。


もしかして……俺の隣で眠るのが嫌で、 布団を被って逃げていたのか?


と思ったけど、彼女が使っていた敷布団はぐしゃぐしゃで、転がった痕跡がしっかりついている。


これは、あれだ。



「寝相、相当ひどいな……」



音を立てず、布団を踏まないように気をつけながら障子を開けた。

雨が窓枠に当たってぽつんぽつんと鳴っている。白っぽい雲のおかげで外は明るく見えた。


彼女を起こそうかどうしようかと時計を確認したが、朝食を始めるには早い時間だった。


昨日は疲れただろうし、しばらく寝かせておこう。



水を飲んだあと、寝巻きを脱いだ。


せっかく高い旅館に泊まらせてもらっているし、雨の音を聞きながらの風呂も悪くないか。


襖に『入浴中』と書いた紙を貼り、閉めておいた。



露天風呂には屋根がついている。雨が柵に弾けて一粒ずつ小さくなり、風呂の周囲に霧のようなもやが立ち込めていた。


……なんだか、夢の中にいるみたいだ。



現実の輪郭がぼやけて、どこか遠くに流れていきそうな――そんな朝だった。



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