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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第38話 一枚上手の妖精


「何かあった? すごくいい顔してるね」


「へ? そうかな……」



そう言われて、ようやく頬が熱いのがわかった。

さっきのお嬢ちゃんの言葉を思い出して、つい顔が緩んでいたらしい。気を引きしめなくてはと思い、頬を軽く叩いてみた。


……だめだ。どうにも口元の緩みが戻らない。


両頬を指先で引っ張って無理やり真顔を作ったら、ソラにくすくす笑われてしまった。



満足したところで風呂から出て、さくっと寝巻きに着替える。


襖で遮られた部屋に行くと、妖精二人とお嬢ちゃんが会話に花を咲かせていた。


邪魔したかな。もう少しゆっくりしてきたらよかったか。



「へー、そんなことも……」


「どう? どう? すごいでしょう?」


「あ、ユウナだー」



「ユウナのひ・み・つ、教えてあげといたわ」


「は? ま、待て、待て。秘密って?」


「うふふ。ないしょー」



ビットとエルがいたずらっぽく笑い合っている。


くそ、なんか嫌な予感がする……。

玲さんといい、この妖精といい、彼女が抱く俺の印象をどうしたいというのか。



お嬢ちゃんが露天風呂に行ってしまった隙に、二人に会話の内容を問い詰めたが、笑って誤魔化すだけで教えてくれなかった。



「もしお邪魔なら、早くどこかに行った方がいいかしら?」


「邪魔じゃないけど、なんで?」


「だって、一緒に寝るんじゃないの?」



寝る?

寝るって……一緒……



「なっ……ちょ……はあ!?」



冗談じゃない……!

一気に心拍数が跳ね上がった。



「あいたっ!」



思わずビットの頭を指で叩いた。


いくらなんでもそれはないだろ!※

那智じゃあるまいし。



「もう、相変わらずお堅いのねえ。ま、どっちにしても森に出かけるつもりよ。あんまり来られない土地だもの。めいっぱい楽しまなきゃね」



「あ、そういえば」と、くしゃっと潰れていたとんがり帽子を指先で直しながら、ビットが言う。



「勘違いしてるみたいだけど……ぼくらがあんまり顔出さないのは、昼間は寝てるからだよ」


「え、そうなの?」



「うん、昼に魔法を使おうとすると眠くなっちゃうし。だから、ぼくらがいないときは寝てると思ってね」



……そうだったのか。

去年召喚した子たちだから、まだ知らないことが多いな。


朝だと眠くなって魔法がうまく使えなくなるから、俺たちが起きる前に持ってきた荷物と一緒に自宅に帰るそうだ。



風呂から出てきたお嬢ちゃんが、頬をほんのり染めて、寝巻き姿で部屋にやってきた。

さっき言われた台詞も相まってか、無性に触れたい衝動にかられる。


ああ、もう……ビットのバカ!


目を合わせるのが恥ずかしくて、ソラを意味もなく撫でまわして気を紛らわせる。


恋愛に不慣れな俺を茶化すには、あいつらはあまりにも手練れすぎる。

彼女を変に意識してしまって、直視できない。


寝るとき気まずいぞこれ。

くそっ、なんてことしてくれるんだよ。




※明治時代の婚姻年齢は、男性満17歳、女性満15歳です。



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