第38話 一枚上手の妖精
「何かあった? すごくいい顔してるね」
「へ? そうかな……」
そう言われて、ようやく頬が熱いのがわかった。
さっきのお嬢ちゃんの言葉を思い出して、つい顔が緩んでいたらしい。気を引きしめなくてはと思い、頬を軽く叩いてみた。
……だめだ。どうにも口元の緩みが戻らない。
両頬を指先で引っ張って無理やり真顔を作ったら、ソラにくすくす笑われてしまった。
満足したところで風呂から出て、さくっと寝巻きに着替える。
襖で遮られた部屋に行くと、妖精二人とお嬢ちゃんが会話に花を咲かせていた。
邪魔したかな。もう少しゆっくりしてきたらよかったか。
「へー、そんなことも……」
「どう? どう? すごいでしょう?」
「あ、ユウナだー」
「ユウナのひ・み・つ、教えてあげといたわ」
「は? ま、待て、待て。秘密って?」
「うふふ。ないしょー」
ビットとエルがいたずらっぽく笑い合っている。
くそ、なんか嫌な予感がする……。
玲さんといい、この妖精といい、彼女が抱く俺の印象をどうしたいというのか。
お嬢ちゃんが露天風呂に行ってしまった隙に、二人に会話の内容を問い詰めたが、笑って誤魔化すだけで教えてくれなかった。
「もしお邪魔なら、早くどこかに行った方がいいかしら?」
「邪魔じゃないけど、なんで?」
「だって、一緒に寝るんじゃないの?」
寝る?
寝るって……一緒……
「なっ……ちょ……はあ!?」
冗談じゃない……!
一気に心拍数が跳ね上がった。
「あいたっ!」
思わずビットの頭を指で叩いた。
いくらなんでもそれはないだろ!※
那智じゃあるまいし。
「もう、相変わらずお堅いのねえ。ま、どっちにしても森に出かけるつもりよ。あんまり来られない土地だもの。めいっぱい楽しまなきゃね」
「あ、そういえば」と、くしゃっと潰れていたとんがり帽子を指先で直しながら、ビットが言う。
「勘違いしてるみたいだけど……ぼくらがあんまり顔出さないのは、昼間は寝てるからだよ」
「え、そうなの?」
「うん、昼に魔法を使おうとすると眠くなっちゃうし。だから、ぼくらがいないときは寝てると思ってね」
……そうだったのか。
去年召喚した子たちだから、まだ知らないことが多いな。
朝だと眠くなって魔法がうまく使えなくなるから、俺たちが起きる前に持ってきた荷物と一緒に自宅に帰るそうだ。
風呂から出てきたお嬢ちゃんが、頬をほんのり染めて、寝巻き姿で部屋にやってきた。
さっき言われた台詞も相まってか、無性に触れたい衝動にかられる。
ああ、もう……ビットのバカ!
目を合わせるのが恥ずかしくて、ソラを意味もなく撫でまわして気を紛らわせる。
恋愛に不慣れな俺を茶化すには、あいつらはあまりにも手練れすぎる。
彼女を変に意識してしまって、直視できない。
寝るとき気まずいぞこれ。
くそっ、なんてことしてくれるんだよ。
※明治時代の婚姻年齢は、男性満17歳、女性満15歳です。




