第37話 静寂のぬくもり
部屋に入るとすでに敷布団が並べてあった。
さらに妖精二人とソラ用に大きめの枕が用意されていた。
仲居さん、気を利かせてくれたのか。ありがたい。
「おかえりー。逢引楽しかった?」
「逢引じゃないから」
「本当かしらねえ?」
妖精たちのにやにやした顔に、なんとなく気恥ずかしさが込み上げる。
俺のいない間に、妖精と猫ちゃんはずいぶんと楽しそうなことをやっていたようだ。
ソラの首には、色とりどりの花の首輪がつけられていた。白い毛並みに映えて、まるで小さな花壇みたいだ。
「お、いいじゃん。かわいい」
声に出してしまったほど、つい見惚れてしまった。が、首輪を普段しないせいか違和感が拭えないようで、後ろ足で花輪をとろうと蹴っている。
妖精の魔法で作られた花弁が、はらはらと畳の上に落ちて消えてしまった。
ソラたちのいる場所の近くにある掛け時計を見ると、出かけてから二時間ほど経過していて驚いた。
そんなにゆっくり散歩しているつもりはなかったんだけど。
「そろそろ露天風呂入ってこようかな」
「あ、わたしもあとで入ります」
「じゃんけんする?」
「いえ。お先どうぞ」
部屋の真ん中にある襖を閉め、露天風呂に面した部屋を、着替える場所にした。
部屋に備えつけられている寝巻きを用意し、身につけていた浴衣は畳んで風呂敷にしまう。
素っ裸の状態で風呂に通じる窓を開けようとした瞬間――
「っ!?」
背後の襖が急に開いて、思わず声が出そうになった。ソラだった。
「やめてくれ。寿命縮むかと思ったわ」
胸を押さえながら、情けなくため息が出た。
俺が隠すのは違う場所だというのに。
「ぼくも入ろうかなーって」
頭が一瞬真っ白になって、言葉が出なかった。
「……嘘だろ?」
実際、ソラが浴槽に入ることはなかった。
低い柵の上に座り、悠々と身を伸ばしている。
露天風呂は、四角い木の浴槽になっていた。
湯に身を沈めると、日中の疲れがふっと抜けていく。
肩まで浸かると、まるで酒の枡の中にいるみたいで、なんだか不思議な気分になる。
大浴場とはまた違った源泉を使用しているらしく、肌触りは普通のお湯のようだが、顔に跳ねたお湯をぬぐって、なんとなく舐めてみたら、少ししょっぱい味がした。
……これ、塩泉?
風呂に浸かりながら景色を見る。今日は澄んだ夜空だった。
旅館の灯りを消したら、星の光だけで辺りが見渡せそうなくらい、無数の星が瞬いている。空に手を伸ばせば、星が指先に触れそうなほど近かった。




