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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第35話 立夏の逢引


「わたしたちは留守番してるわ」


「いってらっしゃーい」



「お土産買ってくるねー」と、ソラが言うと、

エルが「あなたも邪魔しちゃだめよ」と、強制お留守番を言い渡した。


妖精たちは、まるで俺の親であるかのように、にこやかに送り出してくれる。


……いや、逢引じゃないからな。




いざ、外出へ。




朝方に降っていた雨はすっかり止んでいた。どうやらミカヅチ本部責任者の玲さんが、雷魔法で雲を切り裂いて、一瞬で晴れさせたらしい。



「調査の邪魔だからって……すごいですよね」


「さすが“豪雷の魔導士”。かっこいいな」



「……利他さんが辞めたこと、すごく残念がってました。惜しい人をなくしたって」


「なんか死んだみたいな言われだな……玲さんと喋ったの?」



「はい。病室に来てくださって、利他さんについて熱く」


「え、怖っ。何を聞かされたの?」



「ないしょです」


「えー……気になる……」



お嬢ちゃんは楽しそうに笑っただけで、結局教えてくれなかった。


温泉街の通りには露店が並び、黄色の街灯が灯され、やわらかな光が辺りを照らしている。浴衣姿の人々が行き交い、笑顔と楽しそうな話し声があふれていた。



「意外とにぎわっているな」



昼間の騒ぎが嘘みたいに、ここの空気は穏やかで心地よかった。

露店では、美味しそうな食べ物やお土産が並び、風鈴の音が響いて涼しさを感じる。



かんざしが並ぶ店が気になって足を止めた瞬間、店員さんとばっちり目が合ってしまった。


うわ、やば。


気まずさを誤魔化しつつ足早に立ち去る。



「何かほしいものとかあったら、遠慮せずに言ってみて」



熊山さんから渡された、恐れ多い木の札を存分に使わせていただこう。



「そうですね……」



彼女はあたりを見回して、少し考えるように視線を巡らせた。



「あ、野いちご飴食べてみたいです」



祭りにあまり来たことがなく、屋台の焼きとうもろこしとか焼き餅とかを食べたこともないと言う。


霜月先生忙しそうだしな。今度自宅で夏祭りごっこでもしてあげよう。



若い店員さんが売り子をしている店で、野いちご飴を二本購入。


実は自分も食べたことがない。



串に刺さった野いちごが、薄いガラスのような飴に包まれている。



「……めちゃくちゃ甘そうだな」



覚悟して一口かじると、飴はカリカリ、中の野いちごはみずみずしくやわらかい。思ったよりずっと爽やかな甘さだった。



「これ、おいしいですね! ずっと食べてみたかったんですよ」


「うん。思っていたより全然おいしい。家でもできそうだね。今度、果物揃えてやってみようか」



山ぶどうとか、みかんに飴をからめると綺麗な見た目になりそうだ。


……お嬢ちゃん、めっちゃ目きらっきらしてる。

そんなに期待されると、変な汗が出そうだ。



結局ほかにほしいものもないということで、川沿いを散歩してから帰ることにした。



「……楽しかったですね」



彼女は満足そうに目を細める。



「うん。今日は来てよかった」



お嬢ちゃんの笑顔を見ていると、何か報われたような気がして、胸の奥が温かくなった。

守るべきものがここにある――そんな実感だった。



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