第34話 紫陽花の盛装
「お嬢ちゃん、このあと付き合ってよ」
外に出ようと誘うと、うれしそうに頷いた。
どうせなら少し華やかに着飾ってあげようかな。
座椅子に無理矢理座らせ、栗色の髪と同じ色の紐を三つと、紫陽花の飾りがついたものを二つ、魔法で作り出す。
髪を上下に分けて編み込み、それぞれの束をくるりと巻きつける。
毛先に紫陽花の飾りがくるように結べば完成だ。
完璧じゃない?
畠山家を家出したときは髪質がパサパサしていたが、久しぶりにじっくり見るとサラサラになっている。
心の中で勝利宣言した。
誰に向かってとか、そんなの気にしない。
「こんな結び方初めて見ました……!」
髪型に感動しているお嬢ちゃんの反応を見て、思わずにやけてしまった。そんな自分が鏡の端に映っていたのが引くほど気持ち悪くて、顔を逸らした。
「前実家帰ったときに、ねえさまが教えてくれたんだ。若い子はこういう遊びのある髪型が好きだって」
昔は、ねえさまに生えている髪のすべてを三つ編みにできるかどうか、とか実験してたなあ。
今は短いからできないだろうけど。
「そうだ。その帯とってくれる?」
「え、帯ですか?」
簡易浴衣は、腰紐で結ぶ作務衣みたいな作りだ。帯を外してもはだけない。
ビットが持ってきてくれた荷物から白色の半幅帯を出す。普通のものより幅の細い帯だから、半幅帯という。
それを巻いて花の形に結び、紫陽花の飾りを見える位置につけてできあがり。
せっかくなら自分も見たいだろうと思って、部屋の隅の姿見を引っ張ってきた。
「わあ、すてきです! ありがとうございます!」
大きな瞳を輝かせ、やわらかい笑顔を向けてくる。頬を染めて、鏡の前で何度もくるりと回っていた。
「どう? 苦しくない?」
「全然平気です」
ほっと胸を撫で下ろし、釣られて自分も笑ってしまった。
簡単な装いでも充分だけど、やはり滅多に来られない場所なのだから、おしゃれに着飾りたいかなと思ってやってみた。
ご満悦みたいでよかった。
着付けが終わった瞬間に、お嬢ちゃんの周りをぐるぐる回っていたソラが「あっ」と、声を上げた。
「ユウナ、手提げ鞄忘れてるよ」
「うわ、本当だ。忘れてた」
何か買うかもしれないのに、手に持たせるわけにはいかない。
竹かごか……巾着か……ええい。両方混ぜちまえ。
魔法で召喚したのは、飴色の竹かごに、白い巾着が入った無難な手提げ鞄だ。
彩りとか、もっと工夫できたかもしれない。まあいいか。本人が気に入ってくれればそれで充分だ。




