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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第33話 旅館内の探検


湯から上がり、脱衣場に戻ると、そこも貸し切り状態だった。


なんだか今日、運いいな。


うわ、氷式冷蔵庫まで設置されている。

風呂上がりに冷たい水が飲めるなんて贅沢すぎる。



濃紺に、薄く白い縦線が入った自前の浴衣に着替えて脱衣場をあとにした。





お嬢ちゃんはまだのようだ。


男湯の入口付近に置いてあった椅子に腰掛けて、足をぶらぶらと揺らしてみる。


ここにソラがいたら、白い毛が湿った身体にびっしり貼りついて、まるで別の生き物みたいになっていたな。

連れてこなくてよかった。



「あれ、利他さん。部屋に戻られたのかと」



顔を上げると、風呂上がりで頬を紅潮させた――ほんのちょっとだけ色っぽく見えるお嬢ちゃんの姿があった。

旅館の大きな草履を履いて、ひょこひょことたどたどしく歩く姿が、ひよこみたいでかわいい。



「ちょっと旅館内探検しようかなって」


「いいですね。楽しそうです」



機嫌よさそうに微笑む彼女の浴衣に目を向けた。


借りてきた浴衣は、白地に青と紫の紫陽花が全体に描かれたもので、なんと帯は伸縮性がある。

帯をわざわざ締めなくていいみたいで、着物の進化に驚愕した。


近年は洋装が増えつつあるため、着物離れが激しくなっている。そのせいか、着方を忘れた人も出てきたらしいけど、これなら誰でも着るのに苦労しない。


実家がやっている呉服店で販売したらいいかも。



「浴衣、綺麗なやつ選んできたね」


「はい。一目惚れでした」



二人で旅館内をなんとなく探検しながら部屋に戻ることに。


廊下を歩くたびに、板張りの下からかすかに軋んだ音が返ってくる。磨き込まれた床は、石油ランプの淡い光を映して、まるで水面のように揺らめいていた。


壁際には、先代の書といった趣の掛け軸や、生け花が静かに飾られている。


どこかでお香が焚かれているのか、ほのかな白檀の香りが漂い、時間がゆっくりとほどけていくような居心地のよさだった。



部屋に着いた頃には食事を始められるような時間で、ソラには、シナツ町の喫茶店でもらった猫用のお菓子を。妖精のエルとビットには、売店に売っていたお菓子缶をそれぞれ渡す。


仲居さんが部屋に一品ずつ料理を運んでくる仕組みらしい。

今の旬の食材が色とりどりに使われ、それを乗せた皿はオオツチ町で作られたものだそうだ。


次から次へとやってくる美しい料理の中でも、目を引いたのは焼き魚だった。


表面はこんがりと焼き色がつき、湯気が立ちのぼっている。箸を入れると、ふわりと白い身がほぐれ、口に入れれば脂の旨みが広がった。



「ごちそうさまでした」


「おいしかったですね」



喜びを頬に浮かべるお嬢ちゃん。旅館に来てからずっとうきうきしていて、見ているこっちまでうれしくなる。



立ち上がり、背伸びしながら窓の外を眺めると、飲食店や土産物店に灯りがつき、温泉街を散歩する人間が見下ろせる。

みんな楽しそうに歩き回っていた。



部屋にある露天風呂も入りたいけど、腹ごなしに散歩も悪くない。


……まあ、この子のかわいい姿をほかの人らに見せつけたい、なんて下心がちょっとだけあるのは否定できない。



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