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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第32話 極上の温泉


お嬢ちゃんは、女学校時代の思い出をたくさん聞かせてくれた。


やはりと言うべきか……さすがは有名な魔法学者の娘なことだけはある。

聞いたこともないようなお上品な話ばかりで、庶民の俺からすると別世界のやり取りを聞かされているようだった。



「優香ってお金持ちだったね……忘れてたけど」



人の股の間でくつろぐソラも、驚いて耳が立っている。

首から肩にかけて、ゆっくり撫でてあげた。



「わたしが稼いだわけじゃないから、お金の話はしないようにしてたしね……」



謙虚だな。いや、これは裕福故の思考か?



彼女の頭上に見える掛け時計に目を向ける。夕飯の時間まではまだ余裕があった。


まあでも、そろそろ着替えとか持ってきてもらわないとな。

風呂上がりに、濡れた体で服を探し回る羽目になるのは避けたい。



部屋に備えつけられていた紙とペンをお嬢ちゃんに渡す。



「これに着替えとか、必要なもの細かく書いてくれる? うちにいる妖精が持ってきてくれるから」


「え! 妖精いるんですか? 全然気づかなかったです。魔法獣ですか?」



そうだと答えると、目をきらきらさせ「会えるのが楽しみです!」と弾んだ声を上げる。



――自宅にいる妖精、エルとビット。



彼らは魔法獣にはめずらしく、俺が召喚せずとも勝手にやって来てくれる。

庭に生えた犬柘植いぬつげの下の木箱がお気に入りなようで、そこに現れては庭の手入れをしてくれる我が家の庭師だ。


不思議なことにあの妖精たちは、木の生えた場所があれば瞬く間に長距離移動できる能力がある。小さいのに力持ちで、二人がかりなら家くらい軽々と持ち上げられるらしい。



書いてもらった紙をもらい、自分の分と合わせて、紙を折って飛ばせるような形にした。

折り目をなぞるように指を滑らせながら魔力を込め、窓の外へと放った。


それは穏やかな調子でゆっくりと夕空を進んで行った。





十分くらい待ったか、二つの風呂敷を持ったエルとビットが部屋に現れた。



「ありがとう、二人とも」


「久しぶりに呼ばれたと思ったら……ふふっ、逢引中かしら?」



「しょうがないわね」と、彼女は楽しげにくるりと宙を舞う。

きらめく金髪が綺麗なエルは白いワンピース姿で、まるで光の精のように幻想的だ。



「あー、この子。最近家にいるお嬢さんだねえ」



ビットは黒髪がとんがり帽子からはみ出した、のんびりした雰囲気の少年。

ちょっとぽっちゃりした体つきが親しみやすい。


エルとビットは、昔童話で見た挿絵そのままの姿をしている。手のひらに乗るほど小さく、尖った耳が特徴的だ。




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