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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第30話 湯宿のひととき


夕飯の時間を適当に決め、部屋の鍵と、何やら木の札を受け取る。



「これは……?」



聞くと、温泉街の全店舗で使える札だそうで、かかった金額が全部半額になるらしい。


これ……すごくないか?



そんなお得なものは、町長の特別なお客さんにしかもらえないとのこと。


明日会う機会があったら、ちゃんとお礼を言っておこう。



仲居さんが部屋の準備を整えてくれたあと、ふと気がつく。


あれ、これ……お嬢ちゃんと同室じゃないか?



「あー……もう一部屋空いてないか聞いてくるね」



俺は……まあ、別にいいけど。さすがにお嬢ちゃんが嫌だろう。

うん、それに……いろいろ問題がありそうだ。



「え? あっ、すみません。気づかなくて。一緒の部屋はだめですよね」



本気で気づいていなかった様子を見ると、お嬢ちゃんの自己防衛能力の低さにこちらが不安になる。俺が那智みたいに見境ない人間だったらどうするんだ。





受付に戻って聞いてみると、今日は予約でいっぱいでどこも空いていないと言われてしまった。


ちょうど部屋の間に襖があるから、それで仕切って我慢してもらおう。



「部屋空いてないって。そこで区切れるから、寝るときは分かれようか」


「わかりました。ふふ、なんだか、合宿みたいでわくわくしますね」



襖の前に立って、少し首を傾げながらにこにこと機嫌よくしているお嬢ちゃん。

彼女の言葉が脳内でぐるぐると駆け巡った。


合宿……わくわく……?



記憶の奥底から蘇るのは、高校の登山合宿。

風呂上がりの全力枕投げ大会、耐え難いほどのいびき、布団に入った瞬間に始まる下品な話。

さらには、宿泊施設での告白祭り――もう、勘弁してほしかった。


しかも、そのとき付き合った連中、全員破局してたし。意味わかんねぇ……。



「女学校は合宿とかあったの?」



八意やごころ高校の合宿は、確か二年生になってからのはず。一年生のこの子はまだそれを体験していない。


話を振ると、彼女は意外にも目を輝かせた。



「はい、ありましたよ。友だちとお喋りしたりして楽しかったですね」



楽しかったのならいいけど、俺はもう一度したいかと聞かれると、全力でお断りしたい。



「合宿と言えば……やっぱり恋愛話とか? 好きな子いた?」


「ひえっ。急にその話ですか……いませんでしたよ。かっこいいなって思った先輩とかはいましたけど」



「なになにー?」



部屋の見回りを終えたのか、ソラがのそりと顔を出してきた。



「楽しそうな話してるねえ。ぼくも混ぜてー」




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