第29話 老舗の温泉旅館
「それでは、宿まで空よりご案内いたしましょう」
病院を出てすぐ、熊山さんが、朝に見た鹿と張り合えるほど大きな魔法獣を召喚した。
孔雀?
これは鳳凰か?
羽や尾羽は虹色に輝き、体やくちばしはまばゆい金色。
目は緑色をしていて、虹彩にはぐるぐると渦巻き模様が浮かんでいる。
まるで神話の中から抜け出してきたような存在感に、思わず息を呑んだ。
――これ、幸運でも運んできそうだな。
そう思わせるほど神々しい姿だ。
病院の窓から覗いている患者さんたちが、手を合わせて拝んでいる。
この見た目なら拝みたくもなる。
「魔法獣って、姿だけじゃなくて大きさも自由にできるんですか?」
お嬢ちゃんが熊山さんに質問する。
「ええ、そうです。元々小さく召喚した魔法獣でも、あとから大きさを変更することもできますよ」
授業ではまだ魔法獣についてやっていないのかな?
二人が魔法獣の話をしている中、抱えていたソラが小声で
「あれって食べられないよね?」と、聞いてきたが
「鶏肉の部分ないから無理だと思う」と、こちらも小声で返しておいた。
鳳凰の背に乗って空中移動し、山の中にある温泉街に降り立つ。
建物が川を挟んで立ち並んでおり、黄色の街灯が道を煌々と照らしている。
観光客たちが、まるで朝の騒ぎなんてなかったかのように楽しんでいる様子が見える。
泊まる場所は、四百年の歴史がある木造二階建ての老舗温泉旅館だそうだ。
中に入ると漆塗りの床がつやを放ち、まるで昔に戻ったように幻想的な雰囲気があった。
歩くたびにきしむ床の音が、どこか懐かしくて心地いい。
和の趣がたまらない。
自分の家だって、和風にするくらい好きなのだ。ここにいるだけで、自然と顔がほころぶのがわかる。
熊山さんが受付でやりとりを終え、一人の仲居さんを連れてきた。
「それではわたくしはこれで。本日はお疲れさまでございます」
「お心遣い、痛み入ります」
横にいるお嬢ちゃんとソラも深々と頭を下げた。
熊山さんを見送ったあと、仲居さんに連れられ部屋に案内してもらった。
――畳のいい香りがする。
部屋の中央には大きな長方形の座卓。
奥の障子を開けると、露天風呂から森と温泉街を一望できるようだ。
部屋に露天風呂?
どんな高級旅館だよ。
……この眺め、絶対一番高い部屋だろ。
俺が泊まっていいのか不安になってきた。




