第28話 成り行きのお泊まり
頭の中で、社会人の対応って難しい、なんて考えていたら、熊山さんが再び口を開きかけていた。
「光峰さんから、利他さんと霜月さんは退院しても問題ないと伺いました。しかし、体調は万全ではないと思いますので、このまま帰られるよりもこの町にお泊まりになり、明日帰宅された方がよいかと存じます」
彼はひと呼吸置いて、話の続きを語り出した。
「町長と話し合い、お二人の入院費、宿泊費、食事代はすべてこちらで負担させていただきます。ですので、本日はこのままごゆるりとお過ごしいただければ、と」
……ほんとに?
これ、冗談じゃないよな?
なんか、こっちが恐縮しすぎて胃が痛くなってくる。だけど、断ったらもっと気まずくなる気がして、なんとも言えない地獄の二択だ。
退院したその日に、宿代も食事代も負担してもらえるなんて。
……とはいえ、好意を無下にするのも失礼だし。
「そんな。気を遣わないでください」
「いえ、わたくしどもの町をお救いくださった方々に、何もしないという方が申し訳ないので。ここは、泊まってやってもいいかな、くらいの気持ちでいてくださいませ」
熊山さんのゆっくりとした話し方に、自分の受け答えが正解なのか不安になってくる。それも相まって、申し訳なさがじわじわ押し寄せてきた。
熊山さんの言う通り、改めて考えてみると……今から帰って夕飯の用意をするのもだるいし、まあいいか。
着替えとか何もかも持ってきていないが、なんとかなるだろう。
「はい、ではお言葉に甘えて」
隣の病室にいたお嬢ちゃんに宿泊の件について説明するため、ソラを抱えて二人で部屋を訪れた。
熊山さんは変わらず大変丁寧な対応をされて、彼女も慌てふためく……かと思ったら、慣れた様子で違和感なく喋っている。
研究所で小さい頃から大人に囲まれていたからかな。
その度胸がうらやましい。
……俺なんて、いまだに大人と話すと汗出るのに。なんなんだこの余裕。
いや本当に尊敬する。
熊山さんの話を聞くと、お嬢ちゃんの顔がぱっと明るくなった。
目を輝かせ、声を弾ませながら「楽しみです!」と喜びを隠さない。
うれしさのあまり、ほんの一瞬だけ俺の方を見て笑った気がして――ちょっとときめいてしまった。
まあ、言わなければ大丈夫ってことで。




