第27話 破岩の魔導士
「傷、ちょっと見せてくれる?」
彼女が怪我した部分を確認し、跡が残っていないことに胸を撫で下ろす。
とんだくそやろうとはいえ、那智の光魔法の回復技術はすばらしい。
最高の慈悲深さをもって、海に沈めるのは見送ることにしよう。
お嬢ちゃんの服は、魔法でひとまず修復しておいた。
「じゃあ、俺はソラを迎えに行ってくる」
状況が落ち着いたら、またちゃんと話をしよう。飯島のことは、気になるだろうから。
部屋に入ると、寝台の上でソラが悠然と前足を舐めていた。その正面には、洋装に身を包んだ坊主頭の大柄な男性がどっしりと座っていて、俺に気づいて立ち上がった。
「ユウナ、お客さんー」
「おお、利他さん。具合の方はいかがですか」
どちら様だろう……?
片目には白い眼帯。診察帰りの人か?
「ええ。問題ありませんよ」
心配していた旨を話され、そのあと自己紹介された。
オオツチ支部責任者、熊山さん。
優しげな笑顔に、どこか福々しい体つき。なんとなく大黒天を連想してしまった。
全体的に親しみやすい印象の三十代くらいの男性だ。
スーツの上に魔導士組合の腕章を付けていなかったから、組合員だと気づけなかった。
仕事があらかた片付いたから来てくれたのかもしれない。
「小鳥遊さんから、利他さんが目を覚まされたとお聞きしまして。ご挨拶に伺いました」
「そんな、わざわざありがとうございます」
「病人は座ってください」と言われ、ちょっと照れくささを感じながら寝台に腰掛けた。
そうだよな……俺、病人だわ。
那智に壺かぶせられるくらいには元気だけど。
膝の上にするりと侵入してくるソラの首を掻いてやった。
熊山さんが正面の椅子に腰掛けると、椅子が苦しそうに軋んだ音を鳴らす。
「この度は、ご協力いただき感謝申し上げます。おかげさまで、被害が出ることもなく、こうして日常を取り戻すことができました」
頭のてっぺんが見えるくらい深く頭を下げる熊山さん。
こういうの慣れないから、どう返すのが正解なのかわからない。胸がむずむずする。
「とんでもないです。お役に立てて光栄です」
言いながら、自分の声が上ずっているのがわかった。
こういう改まった言葉って、口にするとやけに気持ち悪い。おまけに、変に丁寧に喋ろうとすると語尾がふにゃふにゃになる。
本当苦手なんだよな……。
とにかく、下手なことを言わなくてよかった、と一安心する。
社会人同士のやり取りが難しくて未だに苦手だ。
接客業の人とか本当に尊敬する。
熊山さんも、その道の達人なんだろうな……。




