第26話 過保護の護衛
「お嬢ちゃん、どこにいるか知ってる?」
「隣の部屋。那智もいるよ」
那智もいるなら、ついでに治療のお礼でも言っておくか。
「一緒に行く?」と尋ねたが、ソラはタオルの上が気に入ったようで、そのまま箪笥の中で丸くなっていた。どうやら動く気はないらしい。
「じゃあ行ってくる」
ソラが踏んだタオルは、あとで洗濯してもらおう。
病院の通路に出た。
通路には、患者や病院関係者が行き交っており、それぞれの目的の場所へと足を運んでいる。多少慌ただしく動いているように見えるけど、日常に戻りつつあった。
右隣の部屋の前には知らない人の名前が表示されていた。
左の部屋は誰の名前も出ていない。たぶんこの部屋だ。
扉を叩こうとしたとき、中からなにやら楽しげな声がして、思わず手を止めた。
うーん、邪魔するのもな……。
声に引き寄せられるように、耳が自然と扉へ近づいた――
「いやー、やっぱりその服似合ってるね」
那智の声だ。
「ありがとうございます。でも、もう破れちゃいましたね……」
陽菜の声がしない。お嬢ちゃんと二人だけってことか。
「大丈夫。また新しいの買えばいいし。それより、優香ちゃんってなんでも似合うよね。肌もすごく綺麗だし――」
「ふあ!? ちょっと、もー……くすぐったいですよ」
……ん?
何してる?
まさか、いやいや、そんなはず……いや、でも……。
触ってるだろこれ!!!
感情と共に腕が先に動いた。
扉は騒音を立てて開かれ、それに驚いた二人の時が止まったようだった。
……那智があろうことか、靴下の留め具に指を滑り込ませ、彼女の太ももに触れているではないか。
……血の気が引いた。
いや、逆に頭に昇ったのかもしれない。
「あ、俺死んだ」
「てめえ!! 十二も下の子に何してんだ! その指今すぐ切り落としてやる!」
怒鳴った声が反響する病室に、自分の鼓動だけがやけに大きく響いていた。
***
「もう動いて大丈夫なんですか? あと……那智さんは」
「あれは放っておきなさい」
不埒な男は、部屋の隅にあったオオツチ町の陶芸品――種壺を頭からかぶせ、部屋の外に投げ捨てた。
なあにが、ゆっくりお互いのことを知っていこう、だ。下心丸出しの変態め。
「お嬢ちゃん。いくら知人とはいえ、もう少し危機感を持ってくれ」
「ふふっ、わかりました。でも、那智さんに悪気がなかったのは、伝わってきましたから」
友だち感覚で触られたのかと思ったのか?
まったく、危機感がなさすぎる……。
よく見ると、彼女の頬はほんの少し赤く、俺から目を逸らすような仕草を見せた。
……やっぱり気づいていたんじゃないか。
呆れて疲れがどっときた。




