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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第24話 寝ぼけ眼の衝撃


気がつくと、夕日の赤がぼんやりと目に映った。


先ほどと同じ病室か、似ている部屋かは知らないが……とりあえず、喉が渇いた。



寝台近くの机に飲み水が置いてあることを期待して顔だけ向けると、座っている人の組んだ脚が見えた。


細めのズボンを履いているから陽菜かと思ったが、違う。

もっと筋肉質で、脚の形が別人だった。



その人物は何かの雑誌に集中しているようで、紙を擦る音がする。

すぐに声をかけるのは躊躇ためらわれ、静かに目をその人の顔に向けた。


……え、どうしてここに?


体が無意識に強ばった。

戦いが終わったはずなのに、まるで次の敵がすぐそばにいるみたいな感覚に、緊張感が走る。



「……玲さん?」


「――ん? おー、ユウナ起きたのか。水飲む?」



玲さんが、持っていた雑誌を机に置き、和ガラスのコップに水を注いでくれた。


軋む体をだましながら、両肘をついてゆっくり上半身を起こす。背中の筋が悲鳴をあげるが、喉の渇きがそれを上回る。



お礼を言いながらそれを受け取り、ゆっくり全部飲み干した。


――ああ、生き返る。

足先にまで栄養が行き渡るようだ。


改めて、ミカヅチ本部責任者の小鳥遊たかなし玲さんを盗み見る。


背中まである金髪は相変わらずツヤツヤなのに、ところどころ寝癖っぽい跳ね方をしていた。

“ミカヅチ三人衆”と呼ばれている責任者の一人だというのに、気取った様子はまるでない。


年齢は四十……いくつだったか忘れた。

大体いつも白いシャツに黒いズボンを履いた格好だ。


左腕には、ミカヅチ本部の腕章がはまっており、私事で来たのではないと伺えた。



この国の女性魔導士……いや、全魔導士の強さに順位をつけるなら、間違いなくこの人が頂点だろう。


圧倒的な速さで展開される魔法はもはや神業の域で、威力も当然絶大。

中でも感動したのは、必要最低限の魔力で敵を制圧するところだ。俺とは正反対に。

いつも無駄に力を費やすせいで、何度倒れかけたか。


……あの背中に憧れ、今も追いかけている。



寝起きの気の抜けたこの瞬間に、実力者の玲さんがいるのは精神的によろしくない。

自分の寝癖や顔色がどうなっているのかを思うと、余計に具合が悪くなりそうだった。



「今回の件、話は聞いたよ。また一人で無茶したそうだね」


「……すみません」



「謝るのも悪くないけど、命を落としたら意味がないよ?」



それに対してまた謝りそうになったのを、なんとか飲み込んだ。


“欠乏症”と軽く言っているが、魔導士からすると死の一歩手前の状態だ。人によっては、魔力欠乏症に陥ってから魔法をたった一度使っただけで、絶命することだってある。



飯島を足止めする程度だったら、こうはならなかった。

組合員の助けを待っていれば、お嬢ちゃんが戦うことだってなかったんだ。



「別に怒ってるわけじゃないから、そんなに萎縮しないでもらえるかな。うちの連中もオオツチ支部も、ユウナには感謝しているんだから」



後ろめたい気持ちでいたのがバレたのか、優しい声色で返されてしまった。


……そう言ってくれると安心できる。


気づかれないように、そっと息をついた。



「……そういえば、俺が寝ている間に何かありました?」



玲さんに聞くと「報告された内容だと……」と思い出しながら教えてくれた。



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