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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第23話 勝利の余韻


「な、か、返せ!」



飯島は服を破って起き上がると、狂ったように素手で瓶を奪いにきた。


反射的に体をひねり、手首の延長で腕を振る。空間が歪み、男の足首に召喚された魔法の縄が走った。


バチン、という音と共に、飯島の体が宙に浮き、逆さに吊るされる。

すぐさま枝が伸び、紐を断ち切ろうとするその一瞬――



「――結界」



空間に魔力が広がると同時に、飯島の体が光に包まれた。目に見えない繭のように、透明な壁がやつの周りを囲う。


男の動きがピタリと止まる。


同時に、植物の枝や根が破裂するような音を一度立てて消失していく。魔力の糸を断たれたように、静かに。



「なっ……!?」



鉄塔に張られていた魔法妨害の結界とは違い、これは相手の魔法を封じるための結界だ。

俺の魔法は通るが、こいつの魔法は外に漏れない。


もう一度紐を召喚し、今度は腕と足を縛りあげた。

動けなくなった相手はうつ伏せに倒れる。



――ああ、勝った。しんど。


……誰だよ。こんな高難易度の仕事仕組んだやつ。


倒れた飯島の隣にへたり込み、頭痛と一緒に、しばらく動けずにいた。

汗が落ち、床にしみを作る。


涙かどうかなんて、もうわからない。



「……あんた、どうなってんだ。……死ぬとこだったんだぞ」


「ふふ……負ける姿、見られたくないじゃないですか……?」



「ああ……なるほどな……」



うつ伏せの男はくすりと笑い、どこかに顔を向ける。同じ方向を見ると、足を引きずったお嬢ちゃんがこちらにやって来て、倒れた俺を見つけて目を見開いた。


すぐに表情を押し殺し、隣に静かに座り込む。だがその目は、泣き出しそうなほど潤んでいた。



「利他さん……」



お嬢ちゃんは涙をこらえるように唇を噛み、かすれた声で言った。



「無茶しましたね……」



言葉を返す代わりに彼女の頭を撫でた。





数分後、ソラを抱えて飛んできた組合員が男を連行していった。


やっと事件も解決だ。


走ってきた那智に薬の入った瓶を押しつける。



「ユウナ、おまえ……」


「お嬢ちゃんの治療……頼む……」



もう声も出ない。手も動かない。


背中に誰かの温もりを感じながら、意識がゆっくりと沈んでいく。



終わったんだな……。


安堵と、どこか懐かしい感覚に包まれながら、視界はやがて赤く染まり――そして、闇に溶けた。



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