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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第22話 焦熱の収奪


「なあ……もう魔力ないんじゃないか? そろそろ諦めてくれないか」


「……っ、そういうわけにはいきません」



こいつがどういう考えで起こした事件か知らないが……俺が倒れるということは、彼女の努力が無駄になるということ。


絶対に負けるわけにはいかない。



背後にあった枝から葉が飛んできたので持っていた槍で防ぐ。



――あれ?


男の姿が揺らぐ。いや、歪んで見える。


水底に沈んだ景色みたいに、にじみ、溶けていく。

視界が滲んだと思ったら、今度は音まで遠のいた。心臓の鼓動だけが耳を打ってくる。



……まずい。魔力の限界だ。


酔っ払いだってもっとまともに立っていられるだろうと、ふらつく足に苛立った。



この状態で狙いを定めるのは無理だ。


目を閉じ、意識を一点に集中させる。



「……外すな」



――バチン。



空間が唸る音とともに、複数の槍が一直線に飛び出した。

木の根を器用に避けながら、すべてが狙い澄ましたかのように飯島の服を貫通し、そのまま床へ。


鋼の杭のように固定され、彼は床に縫い止められた。


すぐさまそれを外しにかかる。が、飯島はわずかに目を細めた。

槍を抜こうとしていた手が、そこで止まる。



俺が追撃しないのを見て、何かを悟ったのか。

観察するような視線が、静かに突き刺さる。


目が合った。何も言わずに、互いの腹の底を探るような目だった。


……今はそれがとてもありがたい。



足が重くて一歩進むのが本当につらい。

手に持っていた槍を松葉杖にする輩なんて、俺くらいなものだろう。



「……なんの真似だ。同情か?」


「俺としては……傷つける気は……ありません」



短い間隔でやってくる頭痛のせいで、呼吸もままならず、会話するのも一苦労だ。

額に浮かんだ汗が、頬を伝い顎から滑り落ちた。


聞きたいことは山のようにあるというのに、遠慮なく叩き潰してしまっては、聴取しても話してくれないかもしれない。


正直、彼女に傷を負わせた怒りはあるが、相手を傷つけることで解消できるものでもない。


――でも。



「お嬢ちゃんを、泣かせたことは……万死に、値します」



ふふ、と軽く笑ってみせるが、死にかけているのはこっちの方だ。


悪寒に体を震わせながら、目標の人物の横に屈む。

槍で固定されて動けない腹部に手を乗せた。



「よこせ、その薬」



――ぽたり。



静かな雫の音が、時間の流れを止めた。


腹部から、薬の液体とは思えない、澄んだ透明の水がふわりと浮かび上がる。それは微かに脈動し、青白く光る。


俺は即座に手をかざし、魔法で薬瓶を編んだ。小さな器が現れ、その中に液体が静かに吸い込まれていく。



閉じ込めたそれを懐に収めると、ようやく――本当にようやく、安堵の息が漏れた。




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