第22話 焦熱の収奪
「なあ……もう魔力ないんじゃないか? そろそろ諦めてくれないか」
「……っ、そういうわけにはいきません」
こいつがどういう考えで起こした事件か知らないが……俺が倒れるということは、彼女の努力が無駄になるということ。
絶対に負けるわけにはいかない。
背後にあった枝から葉が飛んできたので持っていた槍で防ぐ。
――あれ?
男の姿が揺らぐ。いや、歪んで見える。
水底に沈んだ景色みたいに、にじみ、溶けていく。
視界が滲んだと思ったら、今度は音まで遠のいた。心臓の鼓動だけが耳を打ってくる。
……まずい。魔力の限界だ。
酔っ払いだってもっとまともに立っていられるだろうと、ふらつく足に苛立った。
この状態で狙いを定めるのは無理だ。
目を閉じ、意識を一点に集中させる。
「……外すな」
――バチン。
空間が唸る音とともに、複数の槍が一直線に飛び出した。
木の根を器用に避けながら、すべてが狙い澄ましたかのように飯島の服を貫通し、そのまま床へ。
鋼の杭のように固定され、彼は床に縫い止められた。
すぐさまそれを外しにかかる。が、飯島はわずかに目を細めた。
槍を抜こうとしていた手が、そこで止まる。
俺が追撃しないのを見て、何かを悟ったのか。
観察するような視線が、静かに突き刺さる。
目が合った。何も言わずに、互いの腹の底を探るような目だった。
……今はそれがとてもありがたい。
足が重くて一歩進むのが本当につらい。
手に持っていた槍を松葉杖にする輩なんて、俺くらいなものだろう。
「……なんの真似だ。同情か?」
「俺としては……傷つける気は……ありません」
短い間隔でやってくる頭痛のせいで、呼吸もままならず、会話するのも一苦労だ。
額に浮かんだ汗が、頬を伝い顎から滑り落ちた。
聞きたいことは山のようにあるというのに、遠慮なく叩き潰してしまっては、聴取しても話してくれないかもしれない。
正直、彼女に傷を負わせた怒りはあるが、相手を傷つけることで解消できるものでもない。
――でも。
「お嬢ちゃんを、泣かせたことは……万死に、値します」
ふふ、と軽く笑ってみせるが、死にかけているのはこっちの方だ。
悪寒に体を震わせながら、目標の人物の横に屈む。
槍で固定されて動けない腹部に手を乗せた。
「よこせ、その薬」
――ぽたり。
静かな雫の音が、時間の流れを止めた。
腹部から、薬の液体とは思えない、澄んだ透明の水がふわりと浮かび上がる。それは微かに脈動し、青白く光る。
俺は即座に手をかざし、魔法で薬瓶を編んだ。小さな器が現れ、その中に液体が静かに吸い込まれていく。
閉じ込めたそれを懐に収めると、ようやく――本当にようやく、安堵の息が漏れた。




