第21話 規格外の二人
「――がんばったね」
お嬢ちゃんは震える手で顔を覆い、すすり泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
か細く繰り返される声が、耳に痛い。
俺は壊れていない長椅子に彼女を横たえ、血で汚れた手をそっと握った。
「謝るのは……俺の方だ。こんな目に遭わせて、ごめん」
知り合いと戦わせるなんて。
しかもあんな強力な攻撃を、まともに受けさせることになるなんて。
けど――情けない自分と同じくらい、この子を傷つけてまで逃げようとする飯島も、到底許せない。
怒りをぶつけようと振り返ると、飯島は怯えていた。体を震わせ、立ちすくみ、ぶつぶつと「こんな……」「なんてことを……」と呟いている。
まさか……この子に、やりすぎたと思ってるのか?
敵意が一瞬、揺らぐ。
舌打ちひとつし、俺は一歩踏み出した。
「あなた、ここまでしなくてはいけないのですか」
答えは返ってこない。
代わりに、彼は肩を震わせながら、鋭く睨み返してきた。
「この件は……絶対に成功させないといけねえんだよ!!」
その顔に浮かんだのは、罪悪感とも後悔ともつかぬ、歪んだ表情だった。
――けれど、瞬きの間には、もう覚悟を決めた目に変わっていた。
飯島が腕を乱暴に横に振った。
ドンッ!という破裂音。
壁や床が爆ぜるように裂け、新たな木の根が突き出てきた。
速度が異常だ。さっきより遥かに速く、重い!
「しぶとい……!」
魔力を手のひらに集中させ、指を鳴らす。
空間がわずかに歪み、そこに何本もの槍が現れた。
黒光りする漆黒の槍――まるで空間そのものを裂いたかのように、なめらかで鋭利な切っ先。
俺は指揮者のように指を動かし、槍を操る。
根を狙い撃ち、穂先で真っ二つに切り裂いていく。
けど……切ったはずの根が、怯むことなく迫ってくる。
割られても動きを止めない……!?
「……くそ、どこまでもしつこいな!」
槍を多重召喚し、天井一面に展開する。
まるで黒い森。
暗く、冷たく、殺意だけでできた天蓋だ。
「はあ!? さっきあんな魔法使っておいて……あんた、ばけもんかよ!」
「ひどいこと言いますね」
俺はそのうちの一本を右手に構え、左手で空中の槍を指差す。
すると半数の槍が一斉に飛び、迫る根を打ち砕いていく。残りは一直線に、飯島を狙って突進させる。
だが……やはり。
飯島は木の根で防御し、全てを弾いた。
こいつ……魔力の扱いに、無駄がない。戦い慣れてやがる。
撃ち落とされた槍は壁や天井に刺さり、そのまま動かない。
けれど、飯島はまるで自然そのものを操るかのように、次々と根を繰り出す。
……本当に、俺と同じ人間か?
「……ちっ。化け物め」
腕を横に振ると、停止していた槍たちが、ふたたび動き出す。
壁から引き抜かれ、空中を走るように再び飛び交う。
そして、根と槍の攻防戦が再び、広間いっぱいに広がった。




