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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第20話 薬の効能


「ぐ……っ」



飯島のポケットからガラスの割れる音がした。同時に透明な液体がじわりと滲み出す。


――血、じゃない。

あれは、例の肥大化の薬か?



お嬢ちゃんのほっとした表情で、狙いが薬の破壊だったことがわかる。


……見事だ。

でも、なぜだ?


槍が脇腹に突き刺さったはずなのに、火傷もなく、無傷。飯島も困惑してる。



――あれが、魔術なのか?

いや、でも金色の炎じゃないし……。



飯島は刺さったままの炎の槍を素手で引っこ抜いた。床に放り投げられたそれは、パキンと音を立て、ガラス細工のように砕け散る。



「こら! 貴重なんだぞこれ!」



舌打ち混じりに怒鳴ると、今度は反対のポケットに手を突っ込み、もう一本薬を取り出した。


お嬢ちゃんが再び炎の槍を生成する。

しかし――。



「っ……!」



木の根が咄嗟に伸び、その手をはたいた。槍は軌道を逸れ、天井へと突き刺さる。



「もう一回くらい動物に使いたかったが、この際だ」



まさか――飲むつもりか!?



まずい。今は頭の痛みなんて構っていられない!


走れ!!


止めないと!



魔力の肥大化の薬が成功していた場合、あれを飲んだら桁違いの魔法が放たれる可能性がある。

けど、副作用だって不明だ。火事の話を聞く前に廃人になったら最悪だ。



木の根が邪魔で距離が詰められない。焦りで手が震える。


ああもう!

魔力が尽きかけでも――止めるしかない!


魔法を発動しようとした、その瞬間。



カチッ。



薬の瓶の蓋が飛び、飯島は迷いなく飲み干した。



「くそっ……!」



間に合わなかった。


彼の背中が一瞬、痙攣したように波打つ。皮膚の下を何かが走っているような……そんな不気味な動きに、ぞっとした。


飯島は口元を押さえ、吐きそうに顔を歪めていた。



なんだあれは……本当に大丈夫か?

もしかして、人間用じゃなかった……?


お嬢ちゃんが足を引きずりながら駆け寄る。



「飯島さん!」


「……ごめん、優香ちゃん。本当はこんなこと、したくなかったのに」



その声は、哀しみを孕んでいた。

しかし、男の意思は固い。


指をひと振りした。



ゴゴッ……!



お嬢ちゃんの足元から木の根が爆発的に生える。


さっきまでとは明らかに次元が違う。速度も、量も、質も。

まるで生きているかのように、狙い澄まして襲いかかる。



「っ――!」



驚いたお嬢ちゃんの反応が、わずかに遅れた。



ドンッ!!



太い根が、音を置き去りにして突き出される。


彼女の腹部に直撃した瞬間、身体は宙を裂き、壁に叩きつけられた。鈍い轟音とともに粉塵が噴き上がり、抵抗もなく床に崩れ落ちていく。



「……っ、う……」



苦しそうに荒い息を吐き、身体を震わせながらも、腕でなんとか起き上がろうとする。


急いで駆け寄って、抱き上げた。


……信じられないくらい軽い。

痛々しい生傷だらけで、服も裂け、顔もすすけている。


こんなことのために、連れてきたわけじゃない。



俺は、どんなことがあっても守るって決めていたのに。

……なのに。どうして、こんなことに……。


保護者失格だ。



震える腕の中で、彼女はまだ、必死に呼吸を続けている。

俺には……それを見ていることしかできなかった。




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