表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/193

第19話 別離の火花


彼女は剥がれた床に足を取られながらも、襲いかかるように伸びてきた木の根をギリギリでかわしていく。その動きは俊敏だが、追いつかれそうなほど危うい。


飯島が人差し指を軽く振っただけで、割れた床の隙間から大量の蔦が湧き出し、瞬く間に広間が緑に覆われた。

生き物のようにうごめくそれらが、敵意をもってお嬢ちゃんを取り囲む。



「利他さん。手、出さないでください」



魔法で応戦しようと身構えた俺に、彼女が冷たく制止をかける。



その一瞬の油断だった。



細い蔦が、疾風のような速さで細い足首に巻きつく。



「くっ……!」



勢いよく逆さ吊りにされたお嬢ちゃんが、呻き声を漏らした。

彼女は即座に小さな炎を発生させて蔦を焼き切り、体勢を崩しかけながらも片手をついて着地。


そのまま床を叩く。

すると、火の紐がうけるように現れ、男の体を縛り上げようと蛇行した。


この子……想像以上に魔法の扱いがうまい。



「……魔法、うまくなったね」



まるで昔を懐かしむような、どこか切なげな笑みを浮かべる飯島。


だが間髪入れず、左腕を大きく薙ぎ払うと、壁から迫り出していた枝が風を裂いて動いた。


その枝先から放たれた無数の葉が、刃のように鋭く、一直線にお嬢ちゃんの元へと押し寄せる。



「っ……ああっ!」



葉が、彼女のむき出しの太ももを裂いた。

鮮血が飛び散り、片膝をついて、流れる血を押さえる。



「お嬢ちゃん!」



痛みに耐えながら、それでもなお立ち上がろうとする姿が胸を締めつける。



慕っていた彼女に、そこまでするのか。


……欠乏症なんてどうでもいい。

今この状況を打破できないなら、死んだ方がマシだ。


両の手のひらを交差させた状態で腕を伸ばす。

そのとき、彼女が指を鳴らした――寸秒、視界いっぱいに火花が弾ける。



「うっ……!」



目もくらむような閃光に、思わずまぶたを手で覆う。そのせいで魔法は発動未遂になってしまった。



「何を……っ」


「利他さん、だめだって言ったじゃないですか」



彼女は汗を滴らせながら、それでも苦しげに微笑み、敵に向かっていった。



魔力欠乏症になったから、戦わせないようにしているんだ。

……俺はなんて無力なんだろう。


爪が食い込むほど拳を握り、ただ見ていることしかできなかった。



お嬢ちゃんは全身に炎を纏わせた。

赤と橙の炎が揺らめき、まるで彼女の意志そのものが燃え上がっているようだ。


熱が肌を焼くほど近く、眩しさに目がくらむ。


まとわりつく木の根や飛来する葉が次々と燃え落ち、焦げた灰が舞った。

その中を、血を流しながらも怯まず、真正面から踏み込んでいく。



だが――経験の差は歴然だった。

飯島の動きに乱れはなく、刃のような葉の一撃ごとに、お嬢ちゃんの体には新たな傷が刻まれていく。


――痛々しい。

もう、見ていられない。

止めたい。



俺は思わず一歩、前に出そうになった。


けれど、足が震え、床に貼りついたように動かない。



相手を止められるだけの力が、今の俺に残っているのか?


頼む……ソラ、早く来てくれ……!



彼女が砲丸投げのように腕を構える。

手のひらに現れたのは、赤々と燃える槍。炎を纏ったそれが、一閃、唸りをあげて放たれる。


飯島は反射的に木の根を前方に突き出し、分厚い壁を形成した。

だが、槍が触れた途端、轟音とともに炎が爆ぜ、焼けただれた穴がぽっかりと空いた。



「……!」



そのまま槍は直進。

脇腹に槍が突き刺さった瞬間――飯島の顔が苦悶に歪み、広間の空気が凍りついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ