第14話 犯人の誤算
目を開ける。
病院の部屋の壁と大きな窓が見えた。
先ほどよりも雨がひどくなり、暗くて何時かわからない。
体の向きを変えると、椅子に座っていたお嬢ちゃんが驚いてびくっと体を震わせた。
「え、もう起きるんですか? まだ三十分も経っていませんよ……」
「結構すっきりしたから、起きるよ。魔法、ありがとうね」
昼寝をしたあとよりもずっと頭がすっきりしている。
火属性にそんな快眠を促す魔法なんてあったか?
彼女に何をしたのか尋ねてみる。
「脳を冷やすとよく眠れるって聞いて……魔法で深部体温を下げて強制的に入眠してもらいました。わたしは火属性使いですけど、攻撃魔法よりもこういうのが得意なんです」
なるほど。
脳に籠った熱を放散させたわけか。
彼女の豊富な知識に再度感謝を述べて体を起こした。
魔力はまだ回復しきっていないはずなのに、体が軽く感じる。
すごい……。
伸びをしている俺の様子をじーっと見てくる彼女は、一体なにを考えているんだろう。
「前から思ってましたけど……利他さんって、まつ毛長いですね」
「……えっ。そうかな……」
お嬢ちゃんの方が長いよね?
彼女の膝の上に座っていたソラが、まるで自分が褒められたかのように誇らしげに鼻を鳴らした。
「そうそう。見つめた相手を悩殺できちゃうんだよ」
そんなわけない。
「やっぱり。寝顔も綺麗だから、つい見とれちゃって……ドキドキしちゃった」
……何を言っているんだこの子は。
こっちがドキドキしちゃったわ。
「寝てるユウナに、ちゅーしようとした女の子から守ってあげた話、聞きたい?」
「えっ。ちょっと聞きたい……」
「……ねえ、その話、俺のいないときにやってくれない?」
――コン、コン。
「……?」
扉を数回叩く音がした。
病院関係者は避難しているはずだから、那智か?
でも、寝てから三十分しか経っていないって言ってたよな。もう来たのか?
お嬢ちゃんが取っ手に手をかける。
その刹那――ぞわりと、背筋に冷たい感覚が走った。
空気が張り詰め、何か見えないものが、扉の向こうからじっとこちらを覗いているような――
「――っ! 結界!!」
何かが弾け飛ぶ。
お嬢ちゃんと廊下に立つ人間の間に結界が張られ、攻撃を防いでくれたようだ。
結界魔導士じゃないけど、結界張れてよかった。
寝台から降り、彼女の隣に並ぶ。
お嬢ちゃんはいきなり攻撃されて動揺したのか、驚いたように一歩引き、唇がわずかに震えていた。
大きな目がさらに見開かれ、声にならない言葉が喉元で止まっている。
「飯島さん……?」




