第13話 弟のお世話
那智の気配が離れたので、寝台に倒れ込んだ。床には投げ捨てられたカッパが落ちている。
回復してもらったおかげで頭痛は治まったけど、まだふらふらする。
こんな状態で行く方が迷惑だ。大人しく横になろう。
しみの少ない天井を眺めるのもいいが、この状態は退屈だった。
仕方ない。のんびりしたかったけど……那智から聞いた話でも思い返すとしよう。
魔力が全身に張り巡らされているというのなら――注射器みたいなものでもあれば、簡単に抜き取れるんじゃないか?
血液みたいに。
科学なんてさっぱりだが、霜月先生なら魔力を抜く道具くらい、ささっと作れそうだ。
もし……それが悪用されたら、いつでもどこでも魔力を抜かれるってことか。
その資料、あのときの火事でちゃんと焼けててくれよ。
病室は静かで、人の気配もない。
誰もいないのをいいことに、寝台の上を転がって寛いでいた。
――布団がやわらかい。
家のやつもこれと同じものに変えようかな、と設備のよさに感動していると、扉が数回軽く叩かれた。
聞き覚えのある声がする……ソラとお嬢ちゃんか。
静かに開けられた引き戸の奥から、白猫が飛び出てきた。
「大丈夫? ユウナ」
「那智があらかた回復してくれたから、なんとか」
「でも、顔色が悪いです。見張っているので、おやすみになってください」
誰が来るって言うんだ、お嬢ちゃん。
投げ捨てたカッパを、備え付けの衣紋掛けに掛けてくれた。
しかし、彼女たちが着ているずぶ濡れのカッパを掛けるところがない。
そこから滴る水が床に広がっていた。
震える様子は見せていないが、きっと寒いだろう。
「乾燥」
二人が着ているカッパの水分が、じゅわっと音を立てて蒸発した。
あ、もうだめだ、疲れた。
「ちょっと、利他さん! 魔法使わないでください」
「……怒った顔もかわいいね」
……って、何言ってんだ。熱でもあるのか。
つい口をついて出た言葉に、自分で驚いた。
誤魔化すように笑うと、布団を引っ張られて頭の先までかぶせられた。
カッパを器用に脱いだソラは、鼻でぐいぐいと布団に隙間を作って中に侵入してくる。
外気に当てられていつもよりひんやりした体毛だ。
きみは中から俺を見張る気か。
「ねーんねーんーころーりーよー」
「わかった、寝る。寝させていただきます」
布団の中に入ってまで歌う子守唄はやめてもらい、そのまま布団に潜って目を閉じた。
……が、眠れない。誰かがいると余計に無理だ。
そんな俺を見かねてか、お嬢ちゃんが顔を覗いてきた。
「……もしよかったら、眠りやすくする魔法、使いましょうか?」
「……そんな魔法、あったっけ?」
両手の指先でこめかみに触れてきた。
彼女の指は、冷たくて細い。
その感触に、胸の奥が妙にざわつく。
「はい、目を閉じてください」
こめかみに感じる魔法の気配が、波のようにゆっくりと広がっていく。
まぶたが重たくなり、意識がふっと遠ざかる。
そして、あっさり眠りについたのだった――。




