第12話 魔力の仕組み
「それより……悪い。もう少しだったのに」
あと少しだけ魔力が残っていれば、あの鹿たちがどこから来たのか突き止められたはずだった。俺のせいで、貴重な証拠を取りこぼしてしまった。
「あんだけやってくれたら上出来だっての。まったく……そのくせ、直せって言ったろうが」
今度は額を指で弾かれた。
ああ、そういえば組合員だったときも、こんな感じで叱られたっけ。
「じゃあな。お大事に」
「あ、ちょっと待って」
光属性の那智なら知っているかもしれない。魔力の仕組みを。
研究所火災の調査中に抱いた疑問をぶつけた。
「光魔導士って、身体のどこにある魔力を回復させているんだ?」
「ああ。どこってわけじゃなくて、魔力は血管みたいに体中に張り巡らされてるから、全身に対して魔法かけてる。例えば――」
普段、手を動かすときは……ざっくり言えば、脳からの”動け“という指令で、手の神経に信号が届いて動く仕組みだ。
「魔法もそれと同じ。手の周辺にある魔力に脳から指令が出て、手から魔法出てくるってこと。だからいくら使っても、手の部分だけ魔力がなくなるってことがない」
へえ、意外と簡単な仕組みだ。
減った魔力が回復する理由は、心臓部にある大元の魔力の塊が使った分の不足を感知し、魔力の生成を増加させて補完するから。
光属性魔導士がする回復魔法は、この働きを体外から手助けすることで、魔力の増加を促す作用があるらしい。
なるほど……勉強になるな。
「逆に、体外に魔力を抜くとどうなる?」
「俺も最近知ったんだけど……魔力を外に取り出すと、大元の魔力が異常をきたして回復量の判断ができなくなるらしい。身体の内側にある魔力の不足は徐々に補っていくけど、急に外から抜かれると、何事?って慌てて回復させようとするんだって。で、急激な魔力の分泌によって人間の身体が持たなくなって、最終的に死ぬ」
うわ、まじか……。
「ひどい症例だと、魔力が暴走して魔法乱射したあと、枯渇するんだってよ」
「血液みたいに、抜かれた分だけ勝手に補ってくれるのかと思っていたのに」
魔力って、人体よりよっぽど雑なつくりしてんのか。
……これが、魔力の移植で魔力提供者が命を落とす理由か。
それと――霜月香代さんが魔力を移植したあと、爆発事故が起きた件も。
医者やめたのに、勤勉で本当に助かる。
「……にしても、倒れる前に症状とかなかったのか? 頭痛、息切れ、悪寒とか」
「いや……急に、ふらっと。倒れてから痛みがきた感じ」
自分の身体なのに、どうにも掴みきれない。
魔法を過剰使用した場合、普通は徐々に具合が悪くなるはずで、欠乏症になる前に魔法の使用を止められるはずだと。
今までそんな自覚症状なかったが?
使う魔法もおかしいのに、欠乏症になる段取りも変なのか。
――それにしても、あの瞬間の無力感。あれをもう一度味わうのは、ごめんだな。
「そんじゃ、安静にしてろよ」
「おお、助かる。さすが勤勉家」
笑いながらそう言うと、那智は苦笑いを返して部屋を出て行った。




