第9話 覇者の覚醒
襲ってくる相手を凍らせながら、陽菜がこれまでの経緯を説明してくれた。
「オオツチ支部から、攻撃魔法が効かない巨大生物が出たって連絡が来てさ。じゃあ、魔法を無効化する結界張ってあるんじゃないの?って」
「ああ。だから、橋下さん連れてきたのか」
今日の仕事の参加者である、橋下 美桜さん。ミカヅチ本部唯一の結界魔導士の手にかかれば、結界は簡単に解除できる。
「でも、結界なんて張られてなかったんだよね」
「……それは厄介だな。原因がわからないのが一番まずい」
橋下さんも一応、解除魔法を試したらしいが、そもそも結界が張られていなければどうしようもない。
困っていたときに、ワタツミ街で似たような事件を解決したのが俺だと聞いて、今回呼ばれたらしい。
「物理系効くのかなって思って、槍とか銃とか使ってみたけど全然だめ」
あれだけの大きさだと、さすがにかすり傷程度しかつかないか。
前回、うなぎを捌くのに時間がかかっていたのもそのせいだな。
「うなぎ騒動のときも、ワタツミ支部の人の攻撃効いてなかったな……」
俺とほかの人の魔法は、何か根本的に違うのかもしれない。いつものやり方で魔法を発動させる感覚と、ほかの人が魔法を放つときの様子に、どこか違和感があった気がする。
だが、今はのんびり考えている暇もない。
どうやって、あの巨大な鹿を止めよう?
今日はお嬢ちゃんがいるから、血なまぐさい手段は避けたい。
檻に閉じ込めるのもな……。
正面から突進してきた雌鹿を、陽菜が氷の壁で受け止め、勢いを殺す。
相変わらず惚れ惚れするような展開の速さだ。
一時期『姐さん』と呼んでいたら、叩かれたのを思い出した。
走って逃げているとき、目の前の建物が崩壊し、辺りに土煙が巻き起こる。飛んでくる瓦礫を避けるため、近くにあった高い建築物にみんなで隠れた。
……あー、何か、引っかかるな。
夢の中――いや、あれは高校のときの記憶だ。
霜月先生が『利他さんの場合……だから最初は……』
頭の中で、カチッと何かが噛み合う音がした。
霜月先生の言葉、今日の夢、そして手詰まりの状況。
バラバラだった記憶が一本の糸でつながったような感覚だった。
なぜ、今までこんな大事なことを忘れていたのだろう。
霜月先生はためになることしか言わないのに。
「ちょっと試したいことあるから、みんなここにいてよ」
「あんま無茶しないでよー」
みんなを置いて、背中の差し袋に入れていた傘に乗って舞い上がり、近くにあった建物の屋上に立つ。ここなら、巨大な動物たちを見渡せる。
今日の夢の中……というか高校のとき、『きみは思慮深くて慎重だから、はい、そうですかって素直に受け入れたり、今までのやり方を変えるのは難しいかもしれないね。』
ここら辺の台詞で叩き起されたけど、この続きが重要だった。
『だから最初は、言葉にしてみるのはどうかな。“言霊”っていうのがあるんだけど』と、先生は言った。
『火の玉を出したいなら「火の玉!」って言えばいいよ』
そんな単純なことで?と疑ったが、先生はさらに『きみは理屈にこだわりすぎる。もう少し単純に考えなさい』という助言をくれた。
いつも、頭の中で魔法を組み立てていたけど、言葉に出して発動したことはなかった。
……今までしようとも思わなかったな。
でも、今は違う。
背中を預けられる仲間がいて、守りたい人がそばにいるから。




