第4話 仕事の準備
結局朝食を二人で作り、せっかくだからそのまま食べることにした。
「……利他さんて、結構優しいですよね」
お嬢ちゃんはごはんを食べながら、幸せそうに微笑んだ。
「え? どこが?」
……かわいい子だとは思う。思うけど、蝶よ花よと愛でているつもりはない。
そんな距離感は、俺には無理だ。
手伝ってほしいときは言うし、やらなくていいときは好きに過ごしてもらえばいい。
机の下で食べるソラの皿から、ごはんが落ちた音がした。
「ないしょです」
「ないしょなの……?」
お嬢ちゃんはにっこり笑っただけで答えない。
なんだこのやりとり、こっぱずかしい。
お嬢ちゃんが作ってくれたおかずを口に押し込んで、食事に集中した。
高校生である彼女が連休に入ってしまったので、家で火事調査の資料をまとめる時間がとれなくなってしまった。
それもあるが、外を出歩くおかしな連中が急に増えたのも原因の一つだ。
春になるとどうしてこう、頭のねじがゆるむ人間が増えるんだろう……。
それにしても、と窓の外を見る。
雨のせいで湿気がすごい。寝巻きと肌が張りついた感覚があって不快になる。
食事を終えてから部屋に戻り、箪笥にしまわれている着物と帯を引っ張り出した。
着物は黒地に、左肩から裾まで灰色の線が三本引かれているものを選んだ。
帯は赤地に、桃色の鳥の足跡がついた、少し変わった柄ものを。
羽織は濡らしたくないし、今日は置いていこう。
「優香、今日は何するの?」
着替えを終え、ソラを迎えに台所に戻ったときだった。彼女の膝の上に乗って、しっぽをぷらぷら振っている。
「今日はとくに……ないかな」
「宿題終わったから」と平然と言ってのけたが、連休は今日からのはずだが……?
驚きのあまり質問すると、宿題は徹夜してでも早めに終わらせたい性格らしく、いつも連休の始め頃にやっつけてしまうのだという。
「優等生怖い……」
もはや執念に近い。
「あとでやるのめんどくさいだけですよ……」
今回、早めに渡された科目については、学校の友人と一緒に放課後残って片付けたそうだ。
自分も最後まで残す方ではなかったけど、ここまでがんばれるのは称賛に値する。
「じゃあ、今日の仕事一緒に来る? ユウナがお菓子買ってくれるかも」
「うーん、邪魔になるから……」
「いいよ。どうせ今日の現場は暇だろうし、来てくれたら助かるよ」
俺の話し相手っていう意味で。
そう言うと、お嬢ちゃんは少しだけ考えるように目を伏せた。その目は、ほんの少しだけ揺れて見える。
興味はあるけど、行っていいのか……とか思っていそうな顔で。




