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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
5章 化物共

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第3話 始まりの雨


「ユウナー! 電話ー!」


「う……ん……えー?」



目覚めると、ソラの顔が視界を塞いでいた。

なんて幸せな朝だ……と思ったのも束の間、廊下から鳴り響く黒電話の音が、耳を突き刺してくる。



「ああ、もう!」



布団を蹴飛ばして飛び起き、電話に出た。



「はい、利他です」


『ユウナくんおはよう。米田です。今日は雨降ってるから、田起こしやめようと思ってね』



「うん、わかった。また晴れた日にね」



受話器をそっと置いた。


米田さんは、カグツチ村の田んぼを一手に管理している庄屋だ。※

田起こしの号令がかかれば、村人総出で手伝うのが決まりになっている。

そして出来上がった米は、全員の家に配ってくれる。


雨が降っていると言っていたので、玄関の反対に位置する廊下の小窓を見ると、大降りでないものの雨が降っていた。

耳を澄ますと、雨音に混じってかちゃかちゃと食器がぶつかる音が聞こえる――



「――あの小娘!」



廊下を滑り込んで、台所の引き戸を思いっきり開ける。

お嬢ちゃんが飛び上がるほど驚いて、お玉を胸の前でぎゅっと握りしめたようだ。子どもみたいにばつの悪そうな顔で、そろりとこちらに振り向く。



「……おはよう」


「……おはようございます」



「……料理は作らなくていいって言ったよね?」



今日は寝坊したわけじゃないからな。

米田さんからの電話が、目覚まし時計が鳴るより早かっただけで。



「……そう……言ってましたね……」



朝食を作ってもらっておいて怒るのも変だが……畠山家の件があるから、彼女にはよっぽどのことがない限り作らせるつもりはない。正直ありがたいけどさ。



「連休、暇で……つい」


「知りません。関係ありません」



お嬢ちゃんは勝手に朝食を作った罰として、五月の連休の一日を、田起こしの日として手伝ってもらうことにした。

魔法を使えばすぐ終わるが、なんやかんやで村のみんなが楽しみにしているみたいだから手作業で。


くわを振るうのは、基本的に男の仕事だ。だからお嬢ちゃんは、村の女性陣と一緒に昼飯作りをやってもらおう。

人手は多いに越したことはない。



「まったく……」



油断も隙もない。

彼女の背中を見つつ、俺は小さくため息をついた。




※庄屋とは、村の責任者のことです。今で言う村長。



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