第30話 兄の記憶
「魔法ってすごいですね。なんでもできて」
「お嬢ちゃんも練習したら、火で好きなものくらい作れるようになるよ」
前に、俺の魔法とお嬢ちゃんの魔法を比べる実験で、蝋燭の形を模した炎を出してもらったことがあったが、ああいうのではなく――花火とか……傷口を焼いて止血したりとか、もっと実用的なものを作れるという意味で。
「じゃあ、たまに庭で練習させてもらってもいいですか?」
「もちろんいいよ。俺も一緒にやろうか?」
属性魔法の発現の仕組みをじっくり見られるいい機会だ。火の玉はまだ無理でも、蝋燭に火を灯せる程度の火花なら、俺だっていけるかもしれない。
「ふふっ。お手やわらかにお願いしますね」
かわいらしい笑顔をくれるお嬢ちゃんにほだされかけていたが――ふと、思い出したことがあった。
火事の関係者である霜月弘清のことを調べるなら、この子に聞くのが一番手っ取り早い。
「話変わるんだけど、お嬢ちゃんってお兄さんいたんだね。どんな人?」
見たことないなと思って、と、そしらぬ顔で聞いてみる。誰に聞いたとかは言わない。
「兄、ですか?」
きょとんとしている。
いきなりの質問が意外だったのかもしれない。お兄さんがいると知っている時点でだめだったかも。
……まずいことを言ったか?
口から出てしまった言葉を取り消すことはできない。ただ何も言わず、相槌すら打たずに待った。
「んー、兄といいますか、兄妹はいないです。一人っ子なので」
瞬間――心臓が跳ねた。
「なっ……あ、そうなの」
……まさかとは思っていた、が。こう、はっきり否定されると、世界がゆっくりと傾いていくようだった。
これで確定だ。
お嬢ちゃんは記憶障害じゃない――記憶を操作されている。
しかし、火事が起こった直前のことを消すのはわかるが、なぜ兄がいた記憶まで消されているんだ?
お兄さんと火事のことを忘れさせることによって、都合のいい何かがあるのだろう。
お嬢ちゃんには「あれ、別の子と勘違いしてたかも」と、笑って誤魔化した。
二人で黙って、咲きかけの花を眺めた。庭に吹く風の音だけが、空気を満たしていた。
――兄のことを調べなければならない。
正確な情報を確実に。
魔導士でないから、一般人の情報から探さないと。
さて、どうするべきか……真実がなんであれ、彼女を傷つけるわけにはいかない。
慎重にやらないとな。




