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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
4章 調査開始

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第29話 放火犯の確定


……理由はどうあれ、研究所を燃やしたのは、魔力を移植されたお嬢ちゃん……だろうな。


まさかこんな結果になるなんて。


望まない結末に、内臓が沈んでいくような感覚に襲われ、呼吸が難しくなる。頭を左右に振って、息を吐いた。



切り替えよう……今は取り乱している場合じゃない。


兄の霜月弘清は、“移植手術に参加していない”と記載されていた。つまり、お兄さんは魔術を受け継いでいない。



この報告書のおかげでやっと、お兄さんの名前を知ることができた。調査も少しは進めやすくなる。



さて、お嬢ちゃんが魔術を使用できることが確定してしまったわけだ。


少し情報を整理しておこう。




十年前、霜月優香が五歳のときに母親の魔力を移植。

それのおかげで、受け継いでしまった『二十歳まで生きられる』という内容の魔術の効果を緩和、または無効化していた。


受け継いできた魔術はそもそも、祖先にかけられたものだが――その効果は薄れることなく、子孫にも及んだ。

それのせいで、祖先の血族の内、魔術を受け継いだ者は基本、二十歳で死んでしまう。香代さんはなぜか延命していたが。


そして二年前、霜月優香は『二十歳まで生きられる』という内容の魔術……つまり、金の炎を発動した。発動した理由は不明。


研究所を燃やしたあの一回で、魔術の呪いが復活したのだろうか?



もしそうだとしたら――あと四年。

それが彼女の命の期限だ。


心臓を鷲掴みされたような息苦しさを感じ、唾を飲み込んだ。



……俺は彼女に何をしてあげられる?


四年しかない。


その事実に、どう抗えばいい?



ああ、くそ。

うじうじしたところで何も進まない。


左右の頬を叩き、己に喝を入れた。



細淵さんのおかげで、十年前の母親の事故や、魔力移植の技術の存在について調べることができた。

あとは兄についても調べるつもりだったが、本人は魔力を保有していないようだし、魔力の移植もされていないなら……意味がないかもしれない。


だか、断定はできない。


読んでいた資料を棚の奥に隠し、お嬢ちゃんが帰ってくるまで昼寝することにした。




***




――玄関扉が開いた音がする。

目を開け、重い上半身をゆっくり持ち上げる。


愛猫のソラが、右足首にあごを乗せてすやすや寝ていた。これでは動けない。



「……ソラ、ちょっとだけ、どいてほしいな」



ソラは、仕方なく動いてやったんだぞという顔で廊下に出て行った。



寝室の障子を開けて外を見る。

穏やかな風に、庭に生えている桜の蕾がわずかに揺れていた。ここ数日で、一気に咲くだろう。


……明日は、桜餅とお茶を持って、ここで小さな花見でもしてみようか。

少しでも、あの子を笑顔にできるなら――。



しばらく花に見惚れていると、軽い足音が聞こえてきて、着替えたお嬢ちゃんが廊下の角から顔を覗かせた。なんだかうきうきした様子で。



「利他さん、ただいま帰りました」


「おかえり。楽しかった?」



彼女は入学式の華やかな演出を熱弁してくれた。

天井から花が降り、生徒が歌ったり踊ったりと楽しい歓迎会だったそうだ。


まあ、成績に関わるから生徒たちも必死だったろう。



そういえば、自分もやらされたな……あのときは水が主題で、水属性魔法を使える生徒が、噴水や霧を出して演出していた覚えがある。

水なんて出せなかったから、海賊の格好をしながら歌う生徒の足元から、海賊船を作り上げ、大々的な舞台になるように演出したっけ。


よく考えると、あの頃が一番楽しかったかもしれない。仲間と笑い合いながら、必死に魔法を繰り出していたあの瞬間が。



……あの頃みたいに、また能天気に笑える日が来ればいいのに。



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