木枯らしが吹く
朽葉との会話は相変わらず楽しかったが、お互い、空虚な笑いが増えているのが分かった。
時間は否応もなく過ぎていく。
休職期間もそろそろ終わりだ。
俺はまだ、自分がどうしたいのかすら、分かっていなかった。
そんなとき朽葉から、散歩に誘われた。
こんなことは初めてで困惑したが、了承した。
二人でただ何をするでもなく、街を散策する。
「あれ、あそこにパン屋さんあったんだ」
「美味しそうだな」
朽葉が鼻をヒクヒクさせて幸せそうな顔を浮かべる。
そんな姿を見て、俺は自分の気持ちが上を向くのを感じた。
俺も朽葉みたいに、見つけたことを口に出してみた。
「お、スーパーもあるな。コンビニもあるし、ここら辺は住みやすそうだ」
「本当だ。ドラックストアもある。駅前はやっぱり繁盛しているねぇ」
時間がゆったりと流れる。
そこそこ歩いたところで、朽葉が、
「そこのベンチに座ろうよ」
と、言った。
俺たちはベンチに座って、人々が街を闊歩する様子を眺めた。
冬の風は冷たく、俺たちの間を吹きさしていたが、心は穏やかだった。
そんなとき朽葉が、話し始めた。
「紅葉、俺、里に戻ることにする」
遂にそのときが来た。俺はその宣告をされるのをずっと待っていたのかもしれない。
「そうか、寂しくなるな」
俺は努めて平静を装って言った。
朽葉が、つぶらな瞳を俺に真っ直ぐ向けて言う。
「巡、今までありがとう」
唾を飲み込んで、笑顔を作ろうとしたが、失敗した。
「お前、それ、反則だろう…」
朽葉が、冷が、涙を湛えた目で俺を見つめた。俺も水の膜で、前がよく見えなかった。
「巡、これ」
冷が銀杏の形をしたペンダントを差し出してきた。
「これ、貰ってくれないか。一目見たとき思ったんだ。巡っぽいなって」
俺を震える手でペンダントを受け取った。
「もう、もう会えないのか。遊びに来たりとか、出来ないのか」
冷は首を振った。
「他の奴は出来るよ。でももう俺は里を出ない。もう決めたんだ」
そうか、冷は決めることが出来たんだな。
俺は頷いた。
「分かった。分かったよ…」
冷の右手の肉球をグッと握った。
そして俺も、冷の目を真っ直ぐ見て言った。
「冷、今までありがとう」
それから、冷には二度と会えなかった。




