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立派  作者: 月蜜慈雨


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8/11

両親




「辞めればいいんじゃない?仕事」




 そう気軽に宣ったのは、ビデオ通話越しにいる母さんだった。

 父さんと母さんは共にアグレッシブな人で、精神的にも肉体的にもタフだ。

 子どもの頃、土日は有無を言わさずどこかに連れていかれたし、仕事にも学校行事にも趣味にもとても精力的で、活力に溢れているとはまさにこのことか、と俺は何度も思った。

 どちらかというと内向的で、積極性がない自分を親戚は、巡くんは両親にはあまり似てないねぇ、なんて何度言われたことか分からない。




 そんな両親のことを、俺は尊敬していた。

 いや、憧れているといった方がいいのかもしれない。

 両親みたいな立派な人になりたい。

 あんな風に仕事に家庭に全力を注げる人になりたい。

 それが俺の原点だ。

 だから今の自分の状態を話すとはとても勇気が必要だった。

 伝えなきゃいけないとは思いつつ、ここまで伸ばしてしまった。




 ビデオ越しにいる父さんと母さんが、心配そうな表情で俺を見ている。

 そんな表情、させたくなかった。

 父さんがこちらに気遣うように、言った。




「父さんも何度も仕事で壁にぶち当たってきた。その度に父さんは乗り越えられたけど、父さんと巡は違う。自分を第一に考えなさい」




 母さんが横でうんうん頷く。




「そうよ。多分環境が悪いのよ。ほら、よく言うでしょ、置かれた場所で咲きなさいって、母さんそれ、間違っていると思うの。咲く場所は自分で選べる。もちろん、巡がどうしたいかが、一番大事だけどね」




 最後に二人は、どんな決断になってもいいから伝えて、と言って、通話が終わった。




 通話を終えた後、ベッドに潜り込んだ。

 潜り込んで、アンモナイトのように丸くなった。




 消えたい。

 消えてしまいたい。

 もう、何もしたくない。

 何も考えたくない。




 ぐるぐると同じことを考えている自分がいる。

 何で自分はこんななんだろう。

 何で自分はこんななんだろう。

 ぎゅっと目を閉じた。

 耳を手で塞いだ。




 ここ最近、シャワーを浴びるのも、歯を磨くのも、洗顔も億劫で、あまり出来ていない。部屋の掃除も出来ていない。徐々に汚くなる自分の部屋はまるで、今の自分の状態を表しているかのようだ。

 本当に回復するのだろうか。

 回復したところで、会社に行ったら元に戻るんじゃないか。それじゃあ、なんの意味のないじゃないか。

 どうしたらいいんだろう。

 目尻から、涙が一粒零れた。

 ちゃんと生きれればよかった。

 それだけでよかったのに。





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