両親
「辞めればいいんじゃない?仕事」
そう気軽に宣ったのは、ビデオ通話越しにいる母さんだった。
父さんと母さんは共にアグレッシブな人で、精神的にも肉体的にもタフだ。
子どもの頃、土日は有無を言わさずどこかに連れていかれたし、仕事にも学校行事にも趣味にもとても精力的で、活力に溢れているとはまさにこのことか、と俺は何度も思った。
どちらかというと内向的で、積極性がない自分を親戚は、巡くんは両親にはあまり似てないねぇ、なんて何度言われたことか分からない。
そんな両親のことを、俺は尊敬していた。
いや、憧れているといった方がいいのかもしれない。
両親みたいな立派な人になりたい。
あんな風に仕事に家庭に全力を注げる人になりたい。
それが俺の原点だ。
だから今の自分の状態を話すとはとても勇気が必要だった。
伝えなきゃいけないとは思いつつ、ここまで伸ばしてしまった。
ビデオ越しにいる父さんと母さんが、心配そうな表情で俺を見ている。
そんな表情、させたくなかった。
父さんがこちらに気遣うように、言った。
「父さんも何度も仕事で壁にぶち当たってきた。その度に父さんは乗り越えられたけど、父さんと巡は違う。自分を第一に考えなさい」
母さんが横でうんうん頷く。
「そうよ。多分環境が悪いのよ。ほら、よく言うでしょ、置かれた場所で咲きなさいって、母さんそれ、間違っていると思うの。咲く場所は自分で選べる。もちろん、巡がどうしたいかが、一番大事だけどね」
最後に二人は、どんな決断になってもいいから伝えて、と言って、通話が終わった。
通話を終えた後、ベッドに潜り込んだ。
潜り込んで、アンモナイトのように丸くなった。
消えたい。
消えてしまいたい。
もう、何もしたくない。
何も考えたくない。
ぐるぐると同じことを考えている自分がいる。
何で自分はこんななんだろう。
何で自分はこんななんだろう。
ぎゅっと目を閉じた。
耳を手で塞いだ。
ここ最近、シャワーを浴びるのも、歯を磨くのも、洗顔も億劫で、あまり出来ていない。部屋の掃除も出来ていない。徐々に汚くなる自分の部屋はまるで、今の自分の状態を表しているかのようだ。
本当に回復するのだろうか。
回復したところで、会社に行ったら元に戻るんじゃないか。それじゃあ、なんの意味のないじゃないか。
どうしたらいいんだろう。
目尻から、涙が一粒零れた。
ちゃんと生きれればよかった。
それだけでよかったのに。




