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立派  作者: 月蜜慈雨


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6/11

大学時代の友人




 ラインの通知を見て驚いたが、一旦見てみることにした。

 

 元気か?

 

 久しぶりに連絡を取ろうという相手に相応しい言葉が書いてあった。俺は打つ。

 

 元気だよ。

 

 もちろんそんな訳ないが、こんなのは単なる定型文だ。

 既読は直ぐ着いた。返事も。

 

 そうか、良かった。今度会わないか。久々にお前と飲みたい。

 

 迷う。会っても今の俺の状態を上手に伝えられる気がしない。言ったとして、気まずくならないわけがないから、それが確定している所に行きたくない。

 じゃあ、嘘をつく?俺も元気に社会人やっているんだって?

 俺はラインのトーク画面を睨みつけた。

 そもそもなんでこいつはいきなり俺に連絡を寄こしてきたんだ。もしかしたら、もしかしたら、今こいつは俺と同じ状態で、誰かに話しを聞いて欲しいのかもしれない。

 それに俺も、久々に真人に会いたい。

 俺は無意識に、いつにする?と文字を打っていた。




 九条真人は大学時代のサークル仲間だ。就活の為に入ったボランティアサークルだったが、みんな楽しそうなサークルがある中、わざわざボランティアサークルを選ぶ人たちだったから、優しい人が多かった。

 その中でも、真人は一際活動に熱心で、快活とはこいつの為にあるような言葉だ、とすら思うほど明るい男だ。

 同学年だからといっても、熱量の差から最初はそこまで接点がなかったが、真人は部長に就任、俺が副部長になると、徐々に話すようになる。

 最終的には、二人で飲みに行ったり、カラオケに行ったりするほど仲が良くなった。

 そんな真人とも、就職を機に疎遠になった。お互い勤務地が微妙に遠かったり、やっぱり仕事は思ったより大変だったりなんかの理由で。

 忙しない日々を送る中、大学時代のことは霞のように忘れかけていた。




 真人と集合した居酒屋は、居酒屋らしく賑わっていた。

 平日なので真人はスーツで現れた。大学時代とは違い、オールバックにした髪型が、彼が社会人であることを物語っていた。こちらはあたかも有給を使った素振りで私服で来た。無難なユニクロで固めた、小綺麗な恰好だ。

 俺と目が合うと真人は破顔した。早速予約した席で二人座る。

 おしぼりと水を持ってきた店員が、飲み物の注文を聞く。

 真人が言った。




「ビールでいいか?」

「ああ」

「生二つですね。少々お待ちください」




 店員が去ると、真人は早速話しかけてきた。




「久しぶりだな。巡」

「こっちこそだよ。急に連絡が来て驚いた」

「まぁまぁ」




 そこで注文したビールとお通しが届いた。

 二人でジョッキを掲げる。

 真人が言った。




「それじゃあ、乾杯!」




 キン、とガラスが触れ合った音がした。

 注文した料理も届いて、食べながら、昔の話をする。

 懐かしさと共に、大学時代に戻ったかのようだ。

 楽しかったが、恐れていた話題も上がった。




「今仕事どうしてる?」




 俺は苦笑しながら言った。




「まぁまぁかな。なんとかやってるよ。そっちはどうなんだ?」




 真人も苦笑しながら言った。




「俺もまぁまぁだ。今度プロジェクトのリーダーを任されることになってな。今までの仕事の引継ぎでてんてこ舞いだよ」

「すごいじゃないか」




 俺の言った言葉に、真人は首を振った。




「全然、小さいプロジェクトだし、同期にはもう出世している奴だっている。俺は遅れているよ」




 真人の言葉に俺は消えたくなった。話を聞く限り真人はちゃんと社会人をやれている。それに比べて俺はどうだ。まるでテーブルの上にある枝豆の抜け殻のように、何もない。

 俺が少し俯いていると、真人が話したい事があるって言ってきた。

 顔を上げると、真人は真顔で、真剣さが伝わってくる。

 真人が口を開いた。




「俺、今度結婚するんだ」




 俺は頭が真っ白になった。でも口からは自動的に言葉を吐き出していた。




「おめでたいな。結婚式はするのか?」

「ああ、来年の六月予定している」

「へぇ、いいねぇ、俺も結婚したいよ」




 真人が少し俺の腕をどついた。まるで大学時代のように。




「お前はその前に相手探しだろ」

「あれ、恋人いないのばれてら」

「そりゃそうだろ。こんな早く都合ついた奴、巡以外いなかったんだぞ」




 俺は叫びそうな言葉を飲み込んだ。

 真人はそんな俺の様子を知らず、安堵した顔で言った。




「友人には、直接伝えたかったんだ。良かった。今日言えて」




 真人は友人が多い奴だから、日程調整も大変だろうに。相変わらず律儀な男だ。

 心にもない言葉を笑顔で吐いた。




「式には呼べよ」




 真人が満面に笑みで頷いた。




「ああ、もちろん!」




 帰り道、朧な半月を見上げながら、酷く惨めな気持ちで帰路に着いた。

 家に帰ると、雑多な自分の部屋が見える。

 少しでも前に進む為にと思って取り寄せた求人雑誌をゴミ箱に捨てた。

 ベッドに潜り込んで、スマホを開けるでもなく、ただひたすら消えたい衝動と戦った。




 こんなとき。

 こんなとき、朽葉がいてくれたら、どれほどいいだろう。

 でも、もう時刻も深夜だ。きっと寝てるだろう。それにいい迷惑だ。

 それでも少しだけ、話しを聞いて欲しくて、最後にラインを打った。

 

 相談したいことがあるんだけど、いい?


 寝られないかもしれないと思ったけど、意識は霞のようにすぐに儚くなった。

 死ぬときもこんな感じなのかもしれない。

 それから俺はまるで老衰で死ぬのを待つ老犬のように深い眠りについた。








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