仲良くなる
朽葉さんとはそれから何度か会った。お互い口調が砕けるまでになった。
相性がいいというか、お互いの自己中さ加減が丁度同じというか、朽葉さんの言った通り、とにかく俺たちは相性が良かった。
病院の前の喫茶店で話す時間が楽しみになった。
普段は通院日が被ることがないらしく、俺たちはお互いの診察が終わるまで待って、それから喫茶店に寄った。
別に喫茶店以外にも、通院日以外にも、一緒に遊べばいいんじゃないかという、最もな疑問はあるが、お互い、今は嵐の中の真っ只中で、これが限界だというのも分かっていた。
言葉にしなくても、お互いの気持ちがなんとなく分かる。
このことを、朽葉のいう、魂レベルで相性がいいということなのかもしれない。
精神疾患の話は敢えて避けていたが、先に話題に出したのは、朽葉だった。
猫の肉球を器用に、お馴染みのアイスティーをかき混ぜながら、朽葉は言った。
「俺、適応障害なんですよねぇ」
「え、マジ?俺も俺も」
朽葉はニンマリと笑った。
「なんとなく、紅葉はそんな気がしてたんよ。紅葉真面目だしな」
俺はそれに反論じみたことを言った。
「そういうお前は真面目じゃないのか」
朽葉が、クックッと喉を震わすように笑う。
「今はこうして楽しく笑っていられるけど、家に帰るともうすっかりダメなんだなこれが」
俺はしたり顔で頷いて言った。
「分かる。俺も朽葉と話すとき以外はずっと寝てるから」
調べたら、適応障害中期は、精神が回復を促す為に、ずっと寝ているものらしい。
朽葉はゆっくり頷いた。
「分かる。俺もずっと寝てるわ。家猫になった気分」
「猫だけにか」
朽葉に尻尾で腕をピシャリと叩かれた。
お互い、目を合わせて笑った。
この時間だけが、今は楽しかった。
「猫だって適応障害になるんだぜ」
朽葉は俺に向かってウインクした。
朽葉との会話は楽しいが、それ以外は何も楽しくなかった。
家に帰ると簡単に部屋の掃除をして、すぐにベッドに入る。
そして寝る。またはスマホをだらだら見る。
SNSを見ながら、そうか、俺の年だともう結婚して子供もいるのか、なんて思う。
そうやって、日が暮れるのを待ちながら、宅配で配達してもらった弁当を夕飯に、歯磨きして、出来る日は風呂に入って、またすぐベッドに入る。
会社のことを考えると、頭痛がした。
一か月が過ぎた。
俺は休職期間を二か月伸ばした。
上司は苦言を呈したが、俺はその度に頭を下げた。悪い人じゃないのだ。ただ精神疾患に無理解なだけで。
「早く回復してくれよ」
上司の精一杯のフォローの言葉に、俺はまた頭を下げた。
日々をニートみたいにダラダラ過ごしていると、自分が無価値なもののように思われる。でもネットでも、精神科の先生も、ChatGPTも、とにかく今は休むことが重要だというので、特に何もせず、とにかく早く回復してくれと願う。
それでも、偶に瞼の痙攣や、顔の引き攣りが起こって、まだまだ自分の精神が回復してないことを知る。その度に少し、自分に対して失望した。
瞼の痙攣や顔の引き攣りはストレスによって精神がショックを受けたときに起きるので、自分の今の精神状態が客観的に知れるのは、割とありがたかったりしたが。
朽葉との会話も、相変わらず楽しい。
そんな日々を過ごしていたある日、突然大学時代の友人から連絡が来た。




